CHAPTER1 iPS細胞 急進展する研究
ヒト胚を壊して作る胚性幹細胞(ES細胞)は,さまざまな組織に分化させることが可能なため,再生医療への応用が期待されている。一方,患者本人と同一の遺伝情報を持ち拒絶反応を起こさないES細胞を作ることは,不可能とは言わないまでもきわめて難しいと考えられてきた。組織細胞でたった4つの遺伝子を発現させるだけで作製できる人工多能性幹細胞(iPS細胞)の発見は,その夢を一気に現実のものにした。今,再生医療や創薬への応用を目指して,世界中でiPS細胞の研究が加速している。
CHAPTER2 再生医工学の挑戦
イモリやサンショウウオの脚は切断しても再生するが,哺乳動物の手足を切断しても再生できない。しかし,どんな教科書にも書かれているこの「常識」が覆されるのも時間の問題となってきた。医療への応用を目指し,発生学・分子生物学・材料工学などの異分野の研究者が結集して,ヒトES細胞やiPS細胞から機能を持った臓器を作る研究が進められている。
CHAPTER3 がんと闘う
がんは日本人の死因のトップを占め,約3割の人ががんで亡くなる時代になった。がんの治療においては,長い間,手術だけが確実な根治療法であるとされる時代が続いてきたが,生命科学の進歩によりその選択肢は広がりつつある。がん細胞の増殖やがん組織内への腫瘍血管の誘導などにかかわっていて,がんと闘うための標的となる分子が次々と明らかにされ,それらの標的だけをピンポイントで狙う分子標的治療薬が実用化されている。さらに,抗がん剤の投与やがんの診断にナノテクノロジーを応用する新しい治療法の臨床試験も始まっている。
CHAPTER4 新しい医薬戦略
巨額の売り上げを誇った新薬の特許が次々と失効する「2010年問題」は,これまでの低分子化合物ライブラリーと高速スクリーニングを組み合わせた医薬品開発の手法に限界が来ていることを強く示唆している。このような混沌とした状況の中,2010年問題を乗り越えるためのアプローチとして,構造生物学など生命科学の進歩に立脚した医薬品設計技術に注目が集まっている。
CHAPTER5 工学が変える医療
過去25年間の情報技術の急速な進歩は,情報処理システムの小型化と大容量化を可能にした。その結果,かつては夢でしかなかった「超小型ロボットや超小型デバイスを使った医療」が実用化段階に入っている。また,画像解析技術の進歩は,100年以上の歴史を持つ病理診断の技法を大きく変えようとしている。