日経サイエンス 

Macで描く科学イラスト

はじめに

八十島博明(日経サイエンス・デザイナー)

 研究成果を第三者に伝えるためにはいくつかの方法があるが,なかでも言葉によるコミュニケーションは最も重要な手段である。しかし,言葉に置き換えるのが難しい情報も多く,そうした場合,とくにビジュアル情報伝達が決定的な役割を果たす。言語と比較した場合,より素早く,より理解しやすい形で,より正確に情報の伝達が可能だからである。事実,論文にしてもスライドやOHPによる発表にしても,グラフやイラストなどのビジュアル表現は大きな位置を占めている。

 

 パソコンが広く普及し,とくに研究者の世界では,文字情報だけでなく,イラストやプレゼンテーションの資料をMacintosh上で作成する機会が増えてきた。しかし,残念ながら,表現方法や情報の整理の仕方に問題が見られるのもまた事実であろう。そこで,本書では,具体的な作品を例にとって,「科学技術関係のイラストを作る際に,どのような点を考慮すればよいか」をできるだけ簡潔に紹介することにした。過去3年間にMacintosh上で作成したイラストは400点をはるかに超える。そのノウハウの大部分を,ここに初めて公開した。

 

 念頭においているイラスト作成ソフトは,現在標準的に使われている Adobe Illustrator 3.2J である。ソフトの使い方自体は,マニュアルなどを参照していただきたいが,ここに掲載した作品を“お手本”にして作っていけば,数カ月程度で,簡潔で美しいグラフや表やイラストを自由自在に作成できるようになるはずである。しかもそれらはすべて研究者の財産となり,情報の整理にもつながっていく。

 

 本書に収録した図版イラスト104点は,過去約3年間に「日経サイエンス」および「別冊日経サイエンス」に掲載したものの中から選んだ。数や量,位置や配置,形や構造,状態や変化,論理や概念と,いちおうの分類はしているが,もとよりイラストには多数の複合化された情報が入っているので,この分類は便宜的なものである。

 

 また,これらのイラストは,雑誌という媒体の特性を背負っている。つまり,印刷物と受け手の目の距離がほぼ一定しており,じっくりと眺めることができるので,多くの情報を入れている。スライドやOHPにする場合は,聴衆が理解するスピードが限られているため,それを考慮して,盛り込まれている情報を分離するとよい。つまり,映画のコマ割りと同じで,部分部分を“足し算”していくように分けてやる。それによって例えば1枚の図版が5枚の連続したスライドになり,動きが出てくる。こんな作業も実に簡単にできるので,ぜひトライしてみていただきたい。

 

1994年3月   八十島博明(日経サイエンス・デザイナー)