パズルの国のアリス

チェス大会の優勝決定戦(問題)

坂井 公(神奈川大学非常勤講師) 題字・イラスト:斉藤重之

各王国からの代表を迎えて開催されるチェス王室主催のチェス大会もいよいよ大詰めを迎えていた。大会は何日かにわたって各国からの代表どうしが総当たりするリーグ戦形式で行われていた。最終的な成績を比較すると鏡の国代表の座を射止めて出場していた赤のルークと不思議の国代表のダイヤの7の2人が同点首位となり,プレーオフの優勝決定戦でチャンピオンを決めることになったのだ。

1戦だけで決めるのもつまらないので,優勝決定戦は将棋の名人戦や野球の日本シリーズなどと同様に合計7戦の予定が組まれ,先に4勝した方をチャンピオンとすることになった。

ところで,チェス大会の本戦であるリーグ戦では,不公平がないように,どの代表選手も先手と後手での対戦が同数になるように決めてきたのだが,これまでの対戦結果全体を眺めてみると若干だが先手の方が勝率が高いようだった。

そこで優勝決定戦では先後をくじ引きで決めることにしたが,毎試合くじ引きをするのも面倒だし,くじ運が勝敗に大きく作用しすぎるのも避けたいということで,次のように決めた。

まず,最初に1回だけくじ引きを行う。そして,くじに当たった選手の先手で最初の2試合を行い,くじに外れた選手の先手で次の2試合を行う。ここまででどちらかが4戦全勝すれば,もちろんその選手がチャンピオンとなって優勝決定戦は終了だが,もしどちらも4勝していなければ,次の第5試合もくじに外れた選手の先手で行う。それでもまだチャンピオンが決まらなければ,最後の2試合はくじに当たった選手の先手で行うというやり方だ。

 さて,実際のくじ引きの結果は,赤のルークがくじに当たり,赤のルーク先手でプレーオフの第1試合が行われることになった。アリスは試合の結果を楽しみにしていたのだが,間が悪いこともあるもので,英国のアリス一家は夏の休暇を利用してヨーロッパ大陸への家族旅行に出かけることになり,アリスはしばらく不思議の国や鏡の国を訪問することができなくなった。

アリスにとって,ヨーロッパ大陸への旅行を満喫できたのはよかったのだが,帰国して,早速,気がかりな優勝決定戦の結果を知ろうとグリフォンを訪ねてみると,グリフォンはニヤリと笑って,「ハハハ,残念だね。昨日,第6戦があったんだ。試合がもつれて3対3になっていれば,第7戦はこれからのはずだったんだよ。だけど,最終戦を待たずに4勝2敗でチャンピオンが決まっちゃたんだ。どっちが勝ったと思う?」という。

ここで,今月号の問題だ。対戦者2人の実力がまったくの互角だった場合,各試合では先手の方が勝率が高いということが事実だとしよう。その場合,まず,ウォーミングアップとして,上の対戦方式ではくじに当たるのと外れるのとどちらが優勝する可能性が高いかを考えていただきたい。

また,次の問題としては,最終戦を待たずに4勝2敗で優勝が決定したとしたら,くじで当たった赤のルークと外れたダイヤの7では,2人の実力が互角の場合,どちらが勝利した可能性が高いだろうか?

答えは2023年9月号に

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