パズルの国のアリス

はったりの効果(問題)

坂井 公(神奈川大学非常勤講師) 題字・イラスト:斉藤重之

白の騎士がまた奇妙な装置を発明した。スイッチを押すと,0以上で1以下の数値を1つ生成して紙に印刷するというものだ。印刷されうる値はまったく均一(一様ランダム)である。

例のマハラジャ出身と噂される賭け事好きのお大尽がその装置のことを聞きつけ,「連続ルーレット」として賭けに使おうと飛びついた。賭けは単純なほうがよいというわけで,装置を使って自分ともう1人がそれぞれ1つずつ数値を印刷し,大きいほうが勝ちというものを考えたが,それだけではあまりに芸がない。そこで,あえて自分が不利な状況の賭けを好むお大尽は,次のようにアレンジを加えてみた。

例えば賭けの相手をアリスとし,1回の賭け金を銀貨1枚としよう。アリスもお大尽も相手の数値は未知だが,自分の数値は見ることができる。ここで,アリスにだけ賭け金を2倍にする「レイズ」の権利が与えられ,アリスはこの権利を使うかどうかを決める。レイズしなければ,互いの数値を比較して大きい数値を持つほうが相手から銀貨1枚を得る。レイズすれば,前述のとおり賭け金は2倍になる。ただし,お大尽はそのレイズを受け入れる(コール)こともできるし,賭けからおりる(フォールド)こともできる。フォールドすれば,数値を比較することなくお大尽は銀貨1枚をアリスに支払わねばならない。一方,コールすれば2人の数値を比較し,負けたほうが銀貨2枚を相手に支払うことになる。

レイズの権利がアリスに何の不利益ももたらさないことは明らかだ。なぜなら,自分が不利と思えばその権利を使用しなければよいだけのことだからだ。今月号の問題は,レイズの権利をうまく使うことでアリスがどのくらい有利になるかを考えていただくというものだ。

お大尽は自分が不利であるような状況を楽しんでいるとはいえ,わざわざ損になるような方針はとらない。不利であってもそれなりに最善を尽くすものとする。例えば,アリスがレイズしてきたときにいつでもフォールドするというようなことは論外である。アリスがそのことに気がつけば,毎回レイズしてくるに違いなく,それはお大尽にとって毎回銀貨1枚を失うことを意味するからだ。

そこで,お大尽が採用する方針は,ある閾値tを決めておき,自分の数値がt以上ならばアリスのレイズを受け,t未満ならばおりるというものが普通だろう。この場合のアリスの最適戦略を考えていただくのが,今月号の最初の問題だ。まず,ウォーミングアップとして,t=0のとき,つまりお大尽がアリスのすべてのレイズに対してコールするとき,アリスの最適戦略はどういうものだろうか? またそのときに得られるアリスの利得期待値を求めていただきたい。さらに,一般のtに対しては,アリスの戦略は(tの値がわかっているとして)どういうものになるだろうか? アリスは,自分の数値が小さいときには,いわゆるはったり(ブラフ)をして,あえてレイズすることでお大尽のフォールドを期待するという戦略がとれるが,それはどういう場合に有効だろうか?

最後の問題としては,賭けを何度も繰り返していると,お大尽の使っている閾値tが次第に明らかになってしまうが,そうなったときでも,お大尽が損失を最小限にくいとめるにはtの値をどう設定するのがよいかを考えていただきたい。

答えは2023年6月号に

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