パズルの国のアリス

5度あることは6度ある?(問題)

坂井 公(神奈川大学非常勤講師) 題字・イラスト:斉藤重之

ヤマネの姪たちは奇妙な動きをする虫を好んでペットにしている。これまでに蟻や蜘蛛を紹介してきたが,さらに奇妙な虫はいないだろうかと,不思議の国の森や公園を物色中だ。

トランプ王宮の中庭を探していると,フライデイが急に立ち止まってみんなに声をかけた。「ねえ,ねえ,これは何かしら? 光の点がゆっくり動いていくのよ」。他の6人が寄ってきて見ると,確かに光点が一定のゆっくりとした速さで真っすぐに進んでいる。「あれ,ここにも別の光点があるわ」と,今度はサタデイが自分の足元を指さした。同じように一定の速さで直進している。

7人が不思議がっているところにグリフォンが通りかかった。早速,これ幸いとばかりサンデイが呼び止める。光点を見たグリフォンは,「ああ,これは幽霊ホタルだよ。あまり出会うことがない珍しい虫だ。幽霊ホタルに遭遇するとは君たちラッキーだね。俺も随分長い間見てなかったな。こいつらはまとまって行動するから他にもいるかもしれないよ」。姪たちが探し回ると全部で4つの光点が見つかった。それぞれが赤,青,黄,緑に光っている。

「面白いわね。捕まえてペットにしましょうよ」とマンデイが言うと,「それは無理だ」とグリフォン。「このホタルは『幽霊』と呼ばれるくらいだから,どんな物体にも邪魔されることなく直進してしまう。捕まえておくことはできないよ。見ててごらん」と言って,ホタルの進路を遮るように自分の足をおいた。すると,ホタルは何も存在していないかのように足の中に入っていき,やがて反対側から現れた。

姪たちが残念そうに顔を見合わせていると,グリフォンは「お,これはもっと珍しい」と少し先のほうを指さした。見ていると,そこに2つの光点が寄ってきて,同時に同じ地点を通過した。互いに相手の進路を邪魔することはなく,通過後も何事もなかったかのように直進していったが,すれ違った瞬間には光の強度がアップして2つの中間の色でとても美しく輝いた。

「2匹の幽霊ホタルが同時に同じ場所を通過するというのは,俺も初めて見たよ。君たちはよくよくラッキーだね」とグリフォンが言ったが,それどころではなかった。見ていると,赤と青の対を除けば,ホタルたちが2匹ずつそれぞれ同じ場所を同時に通過するということが次々に5回起こり,その結果,見事な光のアトラクションが見られたのだ。

チューズデイが「これで赤と青の光が重なれば全部ね」と言うと,グリフォンはちょっと考えてから「まだそれが起こっていないなら,やがて確実に起こるさ」と言い,「あ,ただし赤の進行方向と青の進行方向が平行だと進路が交わらないからダメだけどね」と付け加えた。ウェンズデイが「え,進路が交わっていたとしても,そこに同時に到達するとは限らないんじゃない?」と疑問を呈すると,「いや,その点は大丈夫だ」とグリフォンは自信ありげだ。

さて,この辺で読者も参加してグリフォンの自信の根拠について考えていただきたい。念のため条件を整理しておくと,4匹の幽霊ホタルは同一平面上にある4本の直線上をそれぞれ一定速度で進んでいるが,その速さは同じとは限らない。4本の直線はどれも平行でなく,1点で3本が交わることもなく,計6つの交点を持つ。赤と青の対を除いたホタルの対はそれぞれの進路の交点を同時に通過した。この条件下では,赤と青の対もそれぞれの進路の交点を必ず同時に通過するということにグリフォンは確信を持っているようだが,それはどうしてだろうか?

答えは2023年3月号に掲載

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