チェス研究会の成績(問題)
鏡の国ではチェスの人気はもともと高かったのだが,王室主催のチェス大会が始まってからはさらにうなぎ上りだ。みな腕には自信があり,王侯たちもポーンたちもチェス王室の代表の座を射止めようと練習に余念がない。
王侯たちはそれぞれ自室にこもって練習や戦略研究に勤しんでいることが多い。一方,ポーンたちは休みのたびにゲーム喫茶に集って「研究会」を開き,相互対戦を繰り返して腕を磨いている。
ある日,アリスがゲーム喫茶の前を通りかかると,ちょうど研究会が開かれていた。どんな様子かとドア近くにいた赤のポーンに尋ねると「うーむ,もともと実力が伯仲しているのは,君も知っているだろう。だが,どうもそれぞれのプレーヤーの調子に波があるらしい」と言う。「1回の研究では,俺たち赤白のポーン16人がそれぞれ互いに1戦ずつしようと決めているんだ。1人が15戦もすると結構忙しいので,引き分けの場合には再戦なしだ。報奨というか罰金が多少ないとやる気が出ないから,負けると失点2,引き分けの場合は双方が失点1ずつ,勝てば失点ゼロとしてその合計を計算し,それに比例してこの店での代金を支払うことにしている」。
「つまり,1人が15戦をするんだから,全敗すると失点30。反対に全勝すると失点ゼロで,支払わなくてよいというわけね」とアリス。
ポーンが続ける。「さすがだ。物わかりがいいね。さっきようやく今日の対戦がすべて終わった。調子に波があるというのは,その成績が極端なんだ。どのプレーヤーも,前回の失点と今回の失点を比較すると,その差が16点以上あるのさ。前回調子のよかったプレーヤーは今回は調子が悪く,前回悪かったプレーヤーは今回は調子がいい」。
そんなこともあるのかしらと,アリスは表を作成して考えていたが,ふと奇妙なことに気がついた。「ねえ,ねえ,さっき,どのプレーヤーも前回と今回の失点差が16点以上あるって言ってたけど,その差ってピッタリ16点ではないかしら?」
ポーンたちが成績を調べなおしてみると,確かにどのポーンも成績の差はピッタリ16点だった。さて,今月号の問題は,この状況下ではアリスの発言が正しい,すなわちどのポーンも前回と今回の成績の差はピッタリ16点になることを証明することだ。
答えは2022年12月号に掲載
