パズルの国のアリス

ぞろ目の出ないサイコロ(問題)

坂井 公(神奈川大学非常勤講師) 題字・イラスト:斉藤重之

 アリスが白の騎士の工房を訪ねてみると,赤のポーンたちが全員来ていてなにやらかまびすしい。どうも白の騎士がまた奇妙な発明品を作ったので,そのお披露目をしているところらしい。

 アリスに気づいてポーンの1人が言う。「俺たちの賭け事好きは君も知ってるだろう。大概,鏡の国では標準になっている正八面体サイコロを使っての賭けになるんだが,サイコロに振ってある目は1から8までの数字が1つずつとは限らない。2つ以上の面に同じ目が振ってあることもあるし,目が8よりも大きいこともある。目は正の整数であれば何でもありだ。また,2個のサイコロを同時に使うことも多い。白の騎士さんが今回発明した装置は,丁半博打の壺みたいにサイコロを入れて使うんだが,サイコロを1個だけ入れてボタンを押すと,自動的にそのサイコロを2回振ったのと同じことになり,その目の合計がディスプレーに表示されるんだとさ」。

 それを聞いたアリスは「なんだってそんなものを作るのだろう? 同じサイコロを同時に2個振る,あるいは1個のサイコロを2回振ることにすれば簡単ではないか」と思ったが,不思議の国や鏡の国の辞書に「合理性」などという言葉が存在しないことはわかっている。「フーン」と感心したふりを装っていると,もう1人ポーンが寄って来て,「どうやら設計にミスがあったらしいぞ」と言う。

 聞いてみると,なぜかその発明品ではいわゆる「ぞろ目」が出るということがないらしい。つまり,異なる2つの面の目の合計はどれも均等に出るが,1つの面の目の2倍という数値は決して出ない。いろいろなサイコロを使って実験してみると確かにそのようだ。ただし,ここで「ぞろ目」と言っているのは,同じ面が2つ出ることで,2つ以上の面に同じ目が振ってある場合にはその合計(同じ目を持つ別々の2つの面)が出ることはある。

 常識的な観点からは,どういう仕組みがあればそんな奇妙な装置が作れるのか,そのほうがよほど不思議で,発明品としての価値も高そうなのだが,白の騎士は当初の目論見が外れてしょんぼりしている。アリスは慰めるつもりで,「ぞろ目を使わない賭けを考案すればよいのでは? そうすれば,この装置の特徴を生かせるわ」と言うと,「なるほど」ということで白の騎士もポーンたちもめいめいがその装置を使った賭け事を考え始めた。

 しばらくして1人のポーンが言った。「ところで,この装置が出す目って,どのくらい元のサイコロに固有のものになるのかな?」

 「えっ?」と質問の意味がわからないという顔をしたアリスに,ポーンは「サイコロの各面にどういう目が振ってあるかが決まれば,この装置が出す可能性のある表示やその確率が決まるのは当然だけど,その逆,つまり振ってある目が異なる2種類の正八面体サイコロで,この装置に入れて使うと各表示が出る確率がまったく同じになるものはあるのかなってことなんだけど」と説明する。

 ここで今月号の問題だが,このポーンの疑問に肯定的な解を与えてほしい。つまり振ってある目が異なる正八面体サイコロ2種で,どちらをこの装置に入れて使っても,各表示が出る確率がまったく同じになるようなものを設計していただきたい。さらに条件を付加すると,サイコロの各面に振ってある目が2種のサイコロの16面すべてで異なるようなものはあるだろうか?

 これだけでは物足りないという読者は,同じ問題を通常の立方体のサイコロで考えていただきたい。

 さらに,全部でn個の面が均等に出るサイコロをこの装置に入れて使うとき,ぞろ目を除けば2つの面の組み合わせにはnC2nn−1)/2通りの可能性があるが,それらの面の目の和が同じ確率で表示されるような異なる2種類のサイコロを設計できるのはnがどういう値の場合だろうか?

答えは2022年12月号に掲載

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