電気手袋の刑(問題)
お茶会3人組からお茶会の会場を奪って催される恒例のトランプ王国の晩餐会だが, 兵士だけでやらせてみたところ大喧嘩になってしまったことがあった。そこで2020年6月号では,兵士たち全員に“仲の悪い兵士のリスト”を前もって提出させ,仲の悪い2人の席が隣り合わないようにしたという話をした。
このやり方で兵士たちだけでも平和裏に晩餐会が行えるようになったかを確かめるため,こともあろうに,王侯たちがこっそり盗聴器を仕掛けたのが騒動の始まりだ。確かに喧嘩は始まらなかったのだが,話題の中心は王侯たちへの陰口である。特にハートの女王への悪口雑言は最初から最後までひっきりなしだった。
「兵士だけにしといたのだからそんなことは当たり前」と考える王侯たちも多かったが, ハートの女王の怒りは収まらない。当然「首をはねよ!」が吹き荒れた。なんとか丸く収めようとしたハートの王の鎮静努力もむなしく,ついに40人の兵士全員に斬首宣告が出た。
まさか全員の首をはねるわけにはいかないが,この分では兵士たちに多少の痛い目を見てもらわないと女王の怒りが収まりそうにない。ハートの王がグリフォンに相談したところ,グリフォンは「電気椅子」ならぬ「電気手袋」の刑を提案し,それが採用された。
次のような刑だ。兵士全員に手袋を1組ずつ配り,各自が目をつむってそれを両手にはめる。そして,スペード・ハート・ダイヤ・クラブの各スート(マーク)ごとにエースから10までぐるりと4つの輪を作って並び,隣どうしが手をつなぐ。もちろん仕掛けがある。各兵士に渡される手袋はプラスとマイナスの1組で,プラスとマイナスの手袋が触れ合うとそれをはめていた2人の半身に強い電流が流れるのだ。
結果,無事に試練を切り抜けた者,半身だけ電気ショックを受けた者,不幸にして全身に電撃を食らった者に分かれ,全員が均等に処罰されるよりも面白いとハートの女王はご満悦だった。ここらで満足すれば女王もかわいいのだが,例によってわがままぶりを発揮し,もう一度やろうと言う。しかも電流をさらに強くしてやりたいらしい。
困った顔の他の王侯たちや不安顔の兵士たちを見て,グリフォンが一計を案じ次のように献策した。「今度は,兵士たちに罰を逃れるチャンスを与えましょう。手袋のどちらを左右どちらの手にはめるか自分で決めてよいことにしませんか」。
「問題にならん」とハートの女王。「手袋にはプラス・マイナスの符号が書いてあるのだから,隣になる者とそれが一致するようにはめることができるではないか」。
「いえいえ陛下,そうはいかないのです」とグリフォン。「前もって40人全員に帽子をかぶせます。帽子にはそれぞれ異なる数値が書いてあり,今度は全員がその数値にしたがって小さい順にぐるりと輪を作って並び,手をつなぐのです。兵士が手袋をはめるのは帽子をかぶせた後ですが,各兵士に見えるのは他人の数値だけで自分の数値は見えません。手袋をはめる時点では自分が輪のどの位置に入るかはわからないというわけです。それと,陛下のお慈悲として,帽子をかぶせる前に40人に相談する時間を与えてはいかがでしょう」。
ハートの女王は「ふむ,ならばそれでもよかろう」とグリフォンの提案にのってきたが,実はこの案は,囚人の中にスペードのエースがいることを見込んだグリフォンの作戦だった。知恵者のエースはグリフォンの見込みどおり,期待に応えて40人全員に電気ショックを免れるための指示を出した。もっとも,ダイヤの7は計算を間違えて手袋を逆にはめてしまい,全身を強烈な電気ショックに見舞われ,ギャッと叫んで口から泡を吹いて伸びてしまった。そのとばっちりで両隣の2人も迷惑をこうむったが,これだけですんだのは兵士たちにとってラッキーだったといえよう。
今月号の問題はもちろん,スペードのエースがみなに授けた電気ショック回避法である。エースの指示はどのようなものだったのだろうか?
