勝率の履歴(問題)
例のマハラジャ出身と噂されるお大尽がまたイモムシ探偵局にやって来た。今回は,相談ではなく,前回の相談事(2021年8月号)のお礼と報告ということのようだ。
「いや,あの時のアドバイスは助かりましたぞ。わしは,賭け事は一種の施しと思ってやっているので,負けるのはかまわんのじゃが,あまりに多額を少数の人だけに与えるのも嬉しくないものでのう。ところで,せっかくアドバイスをもらったのに,複雑な賭けだと相手が有利であっても警戒されることが多いので,最近はまたシンプルにサイコロの目だけに賭けるということが多くなっておる。とくに鏡の国の赤の僧正(ビショップ)は,聖職者のくせに妙に賭け事に熱心な奴で,正八面体のサイコロの目の1つに賭けるのが好きだ。僧正の予想が外れればわしが銀貨1枚を得,当たれば銀貨8枚を僧正に支払うということにしておる」。
探偵助手のグリフォンは急いで計算し,「なるほど,その賭けを8回やると,お大尽にとって平均で銀貨1枚の赤字になるということですね。ちょうどいいくらいの負け方というわけですな」。
「そうじゃ。僧正とは結構長くその賭けを続けているので,別に奴を疑うわけではないのだが,サイコロが歪んでいないかちょっと確かめようと思って先々月の途中から勝率の履歴をとってみた。そしたら,ちょっと奇妙な状況になっているのだ。先々月の間は僧正の勝率が1/8を下回っていたが,先月に入っていきなり1/8を超え,先月の間はずっと1/8より高かった。ところが今月に入って急に1/8より下がってしまい,以降,そのままだ」。
「勝率がちょうど1/8近辺をゆっくり行ったり来たりというのは,まあ,よくあることですね。ちょうど月の境目で平均値を跳び越えるというのは珍しいかもしれませんが,サイコロは歪んでいないでしょうし,僧正が何らかのズルをしている可能性はほとんどないですね」と言ったところでグリフォンは急に不審そうな顔になり「待てよ,勝率はいつも先々月からずっとの累計で計算しているんですよね?」
お大尽が「そうじゃ」と答えると,「それはおかしいですね。どこかで計算間違いをしていませんか?」とグリフォンは言う。「えっ」と驚いたお大尽,勝率履歴を計算し直してみると確かに間違いが1カ所見つかった。ここで読者への問題だが,その間違いとはどこだろうか? また,グリフォンにはどうしてそのことがわかったのだろうか?
