パズルの国のアリス

勝率の履歴(解答)

坂井 公(筑波大学アソシエイト) 題字・イラスト:斉藤重之

 今回の問題は,多少,引っ掛けっぽいところがあって恐縮である。グリフォンがおかしいと思ったのは, 勝率が上から1/8を通過するときに,ピッタリ1/8の値を一度もとることなしにその値を跳び越えてしまっている点である。

 勝率が連続的に変化するものであるなら途中のすべての値をとらねばならないということは,いわゆる「中間値の定理」より自明であろうが,ここでの勝率履歴は明らかに離散値をとるから,途中でピッタリ1/8という値にならなくてもよいように思われるかもしれない。実際,これが3/8というような値であれば,勝率履歴がその値を跳び越して上下するということは十分にありうる。

 ところが1/8の場合,勝率履歴がその値を上から跳び越していきなりそれより小さい値になるということはありえない。だから,ある月の最後の時点の勝率が1/8より大きくて,翌月の最初の賭けが終了した時点での勝率が1/8未満ということは決して起こらない。よって,もしほかの時点での勝率の計算が正しいならば,このどちらかの勝率はピッタリ1/8にならねばならない。このことは簡単な計算で証明できる。

 お大尽の言うことが正しく,ある月の月末時点での僧正の勝率が1/8より大きかったとしよう。その時点までの賭けの累計回数をnとし,そのうち僧正が勝った回数をkとすると

k/n>1/8

である。

 さて,その翌月の最初の賭けで僧正の勝率が下がったわけだから,その勝負で僧正は負けたわけであり,その時点での勝率はk/(n+1)に変化する。これが1/8未満,すなわち

1/8>k/(n+1)

ということがありうるだろうか? 上の2つの不等式の分母を払って整理すると

n+1>8kn

が得られるが,nn+1は隣り合う整数だから,その間に8kという別の整数が挟まることはありえないので,矛盾である。

 以上のことは,証明から簡単に読み取れるように,1/8以外にも一般の単位分数1/MMは正の整数)でいえる。すなわち,勝率がだんだん下がっていく場合,途中に1/Mという値があれば,(中間値の定理のように)ピッタリ1/Mという勝率を必ず経過する。逆に勝率がだんだん上がっていく場合,途中に(M−1)/Mという値があれば,ピッタリ(M−1)/Mという勝率を必ず経過する。

 これらのことは,不等式を持ち出さなくとも,次のような状況を考えると直観的に納得できるかもしれない。

 負けると銀貨1枚を支払い,勝つと銀貨M−1枚を獲得するという賭けで,最初は黒字だったのにだんだん負けが多くなり,ついに赤字になったとしよう。銀貨は,賭けに勝って増えるときは一度に複数枚増えるが,負けて減る場合は常に1枚ずつ減るから,黒字からいきなり赤字になることはなく,必ずいったん損得なしの状態を経過する。このときの累計の勝率はピッタリ1/Mである。

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