盗み見の効用(解答)
最初の問題,すなわち一番下のカードについての情報の価値は,特別な工夫をせずとも,普通に計算して答えが得られる。
仮にそのカードの色が赤だったとしよう。すると,残り51枚の内訳は,赤が25枚で黒が26枚である。色を当てなければならないカードは一番上のもので,51枚のカードのうちの1枚という以外の情報はない。カードはよくシャッフルされているから,赤よりは黒と推測するほうが少しだけ当たる確率は高くなるが,それ以上にはやりようがない。黒と推測した場合にジョーカーが獲得する銀貨の枚数の期待値は
である。一番下のカードの色が黒だった場合も同様で,この場合は赤と推測することにより,同じ期待値を得る。結局,一番下のカードの情報から得られる銀貨枚数の期待値は,どちらの場合も1/51であり,銀貨1/51枚がこの情報の価値である。
一般に赤と黒のカードがそれぞれn枚ずつでこの賭けをやるなら,一番下のカードの色を知るということの価値は銀貨1/(2n−1)枚ということになる。
では,下から2枚のカードについての情報の価値はどうだろうか? 後で述べるように,この答えは複雑な計算なしに簡単な推論で得られるのだが,ここではあえて赤と黒n枚ずつの一般の場合を正攻法できちんと計算してみよう。
その2枚がともに赤だったとしよう。すると残りは,2n−2枚のうち,黒がn枚,赤がn−2枚だから,黒に賭けることによってジョーカーが獲得する銀貨の枚数の期待値は
となる。2枚がともに黒だった場合は,赤に賭けることで,同じ期待値が得られる。
2枚が赤と黒だったとしよう。この場合,残りは赤黒ともn−1枚ずつだから,どちらに賭けても期待値は明らかに0だ。
2枚がともに赤になる確率は
であり,ともに黒になる確率も同じだから,結局,全体の期待値は
となり,一番下のカードだけを知った場合と同じであることがわかる。従って,一番下のカードの色がわかっている場合には,下から2番目のカードの色を知るためにいかなる対価も払うべきではない。
実は,この結論が得られるのは偶然ではない。もともとのカード全体の枚数が赤黒同数だった場合,奇数枚のカードについての色情報が得られているときに,さらにもう1枚の色情報を得ても,(それが当てるべき問題のカード,つまり一番上のカードの色でない限り)役に立たないからである。なぜなら,カードのうち奇数枚の色がわかっているとき,まだわかっていない残りのカードの色が赤黒均等に分かれていることはないから,その場合に賭けるべき色は決まっている。さらにもう1枚の色がわかっても,それが推測に影響するのは,残りのカードの赤と黒の割合が均等になった場合だけだが,その場合,どちらに賭けようと期待値は0だから,奇数枚のカードについての情報しかないときの決断どおりに賭けても期待値は同じであり,わざわざ変える理由にはならないからだ。
では,3枚目の色情報の価値はどうだろうか? これは,すでにわかっている2枚が赤と黒1枚ずつだった場合にどちらに賭けるべきかの指針を与えてくれるので,有用なはずだ。その場合に期待値がどう変化するかだけを計算してもよいのだが,3枚がどういうふうに色分けされているかに応じて,先と同様に計算してみよう。カードは赤n枚と黒n枚の計2n枚とする。わかっているカード3枚がすべて赤となる確率は
であるが,そのときは,黒に賭けることによってジョーカーが得る銀貨枚数の期待値は3/(2n−3)になる。また,わかっているカードのうち2枚が赤で1枚が黒となる確率は
であり,そのときは,黒に賭けることによってジョーカーが得る銀貨枚数の期待値は1/(2n−3)になる。黒3枚の場合,黒2枚と赤1枚の場合もそれぞれ同様だから,細部の計算は読者にお任せすることにすると,結局,総合的な期待値は
ということになる。つまり,すでに1枚または2枚の色がわかっているときに,さらに情報を得て計3枚の色がわかるということは,期待値としては
の増加につながり,これがその情報に見合う対価ということになる。
これはnによって異なる。n=26の場合,2枚目の情報には何の価値もないが,もし3枚目も教えてくれるというなら,その情報は銀貨にして26/(51×49)≈0.0104枚くらいの価値がある。もしn=2なら,1枚目の情報には銀貨1/3枚の価値があり,2枚目の情報には何の価値もないが,3枚目のカードもわかるということは一番上のカードがわかるということに他ならないので,その追加情報の価値は銀貨2/3枚ということだ。