パズルの国のアリス

コイン投げで4回連続の表(問題)

坂井 公(筑波大学アソシエイト) 題字・イラスト:斉藤重之

 アリスとグリフォンがイモムシ探偵局で暇つぶしをしていると,例のマハラジャ出身と噂されるお大尽がまたやって来た。新種の賭け事の相談だという。お大尽の楽しみの1つは,自分が不利になる賭けを誰彼となく持ちかけては,金品をばらまくことだ。1回のコイン投げごとに賭けてもらうのは飽きてきたので,連続する何回かのコイン投げに賭けてもらう方法を考えついたらしい。

 「今度の賭けはこうじゃ。まず,相手には定額の賭け金を胴元のわしに払ってもらう。それからコインを,事前に決めた条件に達するまで何回も投げてもらう。払い戻しの仕方は何通りも考えられるが,まあ,コインを1回投げるたびに銀貨1枚というところでどうかなと思っておる。つまり,相手は決められた条件に達しない限り何回でもコイン投げができ,相手が得る賞金銀貨の枚数は,条件が達成されるまでに行ったコイン投げの回数ということになる」

 「それで,条件とはどんなものを考えているのですか?」と探偵局局長のイモムシに尋ねられたお大尽は「まあ,期待値の計算が簡単なように,『4回連続で表が出る』というのはどうかなと思っておる。それだと,1,2回は表が出てもさほど気にしないだろうが,表が3回連続で出ると,次に表が出ると終わりだから,ヒヤヒヤして結構スリリングで楽しめるだろうし……」と言う。

 続けて「そこで賭け金の相談だが,コインを1回投げたときに表と裏が出る確率はどちらも1/2とすると,4回続けて表が出る確率は(1/2)4= 1/16だ。そして,19回投げればその中には連続する4回のコイン投げの列が16組含まれる。そこで,条件に達するまでのコイン投げの回数の期待値を19回とすると,それよりやや少ない額,例えば銀貨16枚くらいを賭け金とすれば,胴元のわしがほどよく負けられて,気分がよいと思うのだがどうかの?」と言う。

 アリスは「そんな簡単な話かな?」と疑問に思ったが,案の定,お大尽の話を聞いて考えていた探偵助手のグリフォンがおもむろに口を開いた。「うーむ,そんなにうまくはいきませんね。それだと,平均すると毎回賭け金の2倍近くの枚数の銀貨を胴元が支払うことになりますよ。ま,お大尽のあなたは勝ちたいわけではないのだから,それでもよいのかもしれませんが……」。

 もちろん,読者にもお大尽の考え方が誤りであることはおわかりだろう。19回のコイン投げには確かに4回連続のコイン投げが16組含まれるが,各組は独立ではないからだ。そこで最初の問題として,4回連続で表が出るまでのコイン投げ回数の正しい期待値を求めていただきたい。

 グリフォンの説明を聞いてお大尽も自分の考えの誤りを納得したのだが,もう1つ別のやり方による賭けの期待値を知りたいという。

 「東洋の日本という国に百人一首というトランプに似たカードセットがあると聞いたので,1組取り寄せてみた。なんと200枚ものカードからなるセットで,しかも半分の100枚にはカラフルな絵が描いてありとてもきれいなものじゃ。その絵付き札100枚を使って遊ぶ子供用ゲームに『坊主めくり』というのがあるのだが,それをそのままやるのは手間がかかるので,先のコイン投げと似たようなギャンブルを考えた。つまり,ギャンブラーは100枚のカードから1枚ずつめくっていき,『坊主』の札が出ると外れで,賭けはそれでおしまい。それまでにめくったカードの枚数と同じ枚数の銀貨をもらえるというものじゃ。この場合,1回の賭けでもらえる銀貨枚数の期待値がどのくらいか,計算できんだろうか?」

 「坊主札」の定義には多少の異論やローカルルールがあるようなので,ここでは名前に「法師」か「僧正」という言葉が含まれている札のみを「坊主札」と考えることにして,絵から受ける印象とは無関係ということにしておこう。すると,100枚のカードに含まれる坊主札は12枚というのが,ほぼ定説になる。つまり,100枚のカードを1枚ずつ順にめくっていくとき,12枚の坊主札のうちの1枚が最初に出てくるのは平均で何枚目くらいかというのがお大尽の疑問になる。これを読者への次の問題としたい。

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