サミットでの席順(問題)
不思議の国の周辺には鏡の国を含め奇妙な国が複数ある。それらの国々の相互関係は,地球の国々と異なり,これといった国境紛争や民族対立などもなく平和で友好的であるのだが,普段はあまり交流のない国どうしも少なくない。そこで,経済活動など互いにもっと協力関係を強めたほうがよいという世論に押され,各国の王侯や首脳を集めて総勢40人のサミット(主要国首脳会議)を開催しようという話になった。
栄誉ある第1回サミットのホスト国には,何と不思議の国が選ばれ,さらにハート,スペード,ダイヤ,クラブの各王室の間でくじ引きを行った結果,議長の座をハートの女王が射止めた。
さて,サミットの初日,得意満面のハートの女王は,参加者全員が着席したころを見計らってゆっくり議長席に進み寄り,深々と腰を沈めた。それから,重々しく会場を見わたし,開会のあいさつをするために立ち上がろうとしたとき,思っていたのとは様子が違うことに気がついた。ハートの女王は参加者全員の席順を前もって決めていたのだが,参加者がまったく違う順に並んでいたのだ。
参加者の座席は議長席の右隣から左隣まで,一列にぐるっとテーブルを巡っている。ハートの女王は雑用係のジョーカーに座席表と参加者全員の名札を渡し,座席表に従って名札をそれぞれの席に置いておくように指示しておいたのだが,ジョーカーに問いただすと,参加者が会場入りするまで時間があったので,とりあえず名札を裏向きに置いたという。ところが,ジョーカーが他の雑用に追われているうちに参加者が次々に入ってきてしまい,議長席以外の好きな席を選んで勝手に座ってしまったというわけだ。
ジョーカーを罰するのは後にするにしても,こうなると,是が非でも自分の思うとおりにしなければ気がすまないのがハートの女王の性分だ。「座席順が予定どおりでないと議事を進めにくいので,名札を裏返して各自指定された座席に移動してもらえないか」と参加者に頼んでみた。
ところが,参加者たちも,ハートの女王ほどではないにしても,わがままな点ではなかなかの強者である。「ふーむ,移動してもかまいませんが,いまの座席からいきなり遠くへ移るのは面倒でいやですな。隣の人と席を交換するくらいならかまいませんがね。それに,いま自分が正しい席にいるのなら,そこから離れるのは一瞬たりともごめんです」と言う。
そこで,ハートの女王は隣り合う2人の座席交換を繰り返して,全員が正しい席に着いてもらう手順を見つけ出すようジョーカーに命じた。読者にもジョーカーを手伝ってそのような手順を見つけていただきたい。そんな手順が存在するだろうか?
考えるうえで障害になりそうなことは,どの参加者もいったん正しい席に着いたらそれ以後は決して動くことに同意しないということだ。幸か不幸か,議長席のハートの女王を除き,最初から正しい席に着いていた参加者はいなかったものとする。
答えは,2021年8月号に掲載
