チェス王室でのチェストーナメント(問題)
当然のようだが,鏡の国で頭脳スポーツとして最も人気が高いのはチェスである。その人気にあやかって,チェス王室主催でチェス大会を開いてみたらどうかという提案が王室内からあがり,開催の機運が高まった。鏡の国はもちろん,近隣の国々にも声をかけ,それぞれの地域から代表選手を派遣してもらう計画だ。
もちろん,チェス王室からも代表選手を出す。そこで,大会運営の準備と練習を兼ね,王室内全員のトーナメント試合によって代表を選考することになった。赤の王室でも白の王室でも,みなが「我こそはぜひ代表に」と意気込んで,寸暇を惜しんで猛練習だ。
例外はないので,赤の王様も白の王様も一候補選手としてトーナメントに参加するが,2人とも大変な負けず嫌いである。練習で臣下に負けるのは悔しいし,手のうちを知られたくないということで,2人だけで密室にこもってこっそり実戦練習を行った。
結果は,赤の王様の勝率がわずかに上回ったが,白の王様が悔しがることこの上ない。「今回の練習では,朕がいまひとつ不調でありましたが,トーナメントの本番で赤の陛下と当たりましたら,きっと雪辱を果たしますぞ」と白の王様。それに対して「いやいや,この結果は実力通りです。もし本番で白の陛下に当たりましたら,それこそ返り討ちにして進ぜましょう」と赤の王様も強気の発言だ。
ところで,王侯といえどもトーナメント表に配置するうえでいかなる配慮も受けられないので,この2人の直接対決があるかどうかは神のみぞ知るだ。2人の実力が他の選手を圧倒するようなら,直接対決が実現するだろうが,当たる前にどちらかが敗退するかもしれない。実は,トーナメントに参加する32人の実力は伯仲しており,各試合で誰が勝つかはまったくの五分五分である。
さて,読者への最初の問題は,この状況で赤の王様と白の王様の直接対決が起こる確率を求めてもらうことだ。また,その直接対決が決勝で行われる確率はいくつになるだろうか? 32人の選手のトーナメント表はまったく平等で,試合数にバラツキはない(いわゆるシードはない)ものとする。また,チェスの試合では引き分けなどの規定があるが,引き分けの場合はどの対戦も決着がつくまで再試合を行うものとする。
次の問題は,トーナメント表が不均衡な場合を考えてもらうことだ。実は,先ほど求めていただいた2つの確率は,トーナメント表がどんなに不均衡に作られていてもそれに関係なく同じである。それを証明していただきたい。ただし,たとえば王様たちは対戦数が少ないなどというような“えこひいき”はなく,各選手がトーナメント表にどう配置されるかはまったくランダムに決まるものとする。
答えは,2021年7月号に掲載
