パズルの国のアリス

ピンポン島訪問記

坂井 公(筑波大学アソシエイト) 題字・イラスト:斉藤重之

 アリスにとって,不思議の国や鏡の国に行くことはいまや日常的な楽しみになっている。それらの国で起こる珍事に巻き込まれるのも楽しいが,チェシャ猫がその特殊能力を使って時おり連れていってくれる他の国を訪問するのは,もっと新鮮でわくわくする。

 今回,チェシャ猫に連れられて訪ねたのは,近隣から「ピンポン島」と呼ばれている島国である。島を歩きながらチェシャ猫が言う。「この島には2つの民族が暮らしていて,一方をピン族,他方をポン族という。歴史的には違う民族らしいんだけど,とても仲が良くて,文化や人種的特徴などもほとんど違わない。言葉なんかも我々が使っているのが完全に通じるし,日常的に交流があって和気あいあいとやっていて,喧嘩をしているところなど見たことがないくらいだ」。

 「素晴らしいですね。あたしの母国の英国なんかは,ゲルマン系だのケルト系だのいろいろな民族がいて結構大変なのはわかるんだけど,言葉はおおむね英語が通じるわけだから,いろんな民族が仲良くやっていけるといいんだけど」とアリス。

 「どこでもそううまくいくというわけにはいかないさ。実はピンポン島も何も問題がないというわけではない。言葉は通じると言ったけど,1点だけ重要な違いがある。質問に対して『はい』と答える代わりにピン族の人は『ピン』と言うし,ポン族の人は『ポン』と言うんだ。『いいえ』の場合,その逆になる。ピン族の人は『ポン』で,ポン族の人は『ピン』だ」

 「ええっ! それでは誤解が生じて困るでしょう?」とアリス。チェシャ猫が言う。「実は島民どうしでは,だれがどちらの民族に属するかを知っているから,あまり困ることがないようだ。俺たちよそ者にとっては困ったものだがね。それに島民たちは,離島に住んでいるせいか,よそ者に対しては実に警戒心が強くてシャイだから,あまり打ち解けてこない。決してウソはつかないけど,質問には『ピン』か『ポン』で答えられるもの以外はめったに答えてもらえないし,あまり何度も質問するといやな顔をされる。それでも俺は慣れて質問のコツがわかってきたけどね」。

 歩いていくと,道が2手に分かれている。分岐点の近くで1人の島民が休んでいることに気づいたチェシャ猫は,「ちょうどいい。質問の練習だ。分かれ道の一方は港に通じているはずだけど,あの人に1回だけ質問して,どっちの道が港に通じているか,聞き出してごらん」とアリスに言う。

 読者にはまずウォーミングアップとして,どのような質問をすればよいかをアリスにアドバイスしてほしい。もちろん,質問は「ピン」か「ポン」で答えられるものであり,その島民がピン族かポン族かは見た目からはわからない。

 この課題を何とかクリアしたアリスは,チェシャ猫とともに無事に港に到着したが,そこでは何かの祭りが行われているらしく,島民が16人,輪になって火の周りを囲んでいた。それを見たチェシャ猫は,何を思ったのか,島民の輪に近づいてその1人をつかまえ,「右隣の人はピン族ですか?」と聞いた。

 その答えを聞くや否や,チェシャ猫はその当の右隣の島民に向かって同じ質問をした。こうして,次々に右隣に移りながら,同じ質問をしていった。それぞれの答えが「ピン」なのか「ポン」なのかアリスにはよく聞こえなかったが,15人目の答えを聞いた後,チェシャ猫は最後の1人には何も聞かずに納得した顔でアリスのところに戻ってきた。

 「どうして最後の人に同じ質問をしなかったのですか?」とアリスが尋ねると,チェシャ猫は「誰もウソをつかないのだから,最後の人の答えは,聞かなくともわかるさ」と当たり前のように答える。さらに続けて,「それより,彼らの答えから,俺には,彼らのうち何人がピン族で何人がポン族かわかったよ。君にはわかったかね」と言う。

 「ええっ」と仰天したアリスが,「でも,あたしには返事がよく聞こえなかったから」と言い訳すると,チェシャ猫は「そんなことは今回に限ってはあまり重要ではないんだ」と言って,「でも,最初の12人の答えは『ピン-ピン-ピン-ポン-ピン-ピン- ポン-ピン-ピン-ピン-ポン-ピン』だったよ。ついでに聞くけど,最後の3人の答えが何だったかわかるかい?」と続ける。

 読者には,この一連のチェシャ猫の課題に,アリスと一緒に取り組んでいただきたい。

答えは4月16日に

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