蜘蛛たちのジャンプ力(問題)
2020年2月号でヤマネの7匹の姪たちが飼い始めた蟻の話におつきあいいただいたが,姪たちはすでに気が変わり,新しいペットに夢中だという。
早速アリスが様子を見に行ってみると,今度のペットは蜘蛛だそうだ。昆虫や小動物には慣れていて,あまりものおじすることのないアリスだが,あのネバネバする糸はなんとなく苦手だ。
薄気味悪そうに遠くからのぞいているアリスを見て,「大丈夫よ。毒なんか持ってないし,そもそもかみついたりしないから」とサンデイ。そこでアリスが少し近寄ってみると,数匹の蜘蛛が地面に散らばっている。じっとしているかと思いきや,いきなり1匹がふんわり跳び上がり,別の1匹の蜘蛛の上を越えてその向こう側に滑らかに着地した。
意表をつかれてドギマギしているアリスを見て,「ね,ちょっとビックリでしょ」とマンデイ。「蜘蛛って意外にジャンプ力があるのよね。映画のスパイダーマンみたい。実はね,よく見ないとわからないでしょうけど,どの蜘蛛も互いに細い糸で結ばれているの。だから,ふんわりと跳び上がっても,ほら,向こうの蜘蛛がその糸を強く引いてくれるので,その蜘蛛を越えて向こう側まで跳ぶことができるのよ」。
しかしながら,興味を持ったアリスたちが調べてみると,どうやらどこまでも跳んでいけるというわけではないらしい。2匹だけの場合,ジャンプした蜘蛛がもう1匹の蜘蛛を跳び越えていける距離は,跳ぶ前の2匹の距離を超えられないことがわかった。しかも,ほかにも蜘蛛がいる場合,ジャンプした蜘蛛は跳び越そうとしている当の蜘蛛以外ともすべて細い糸でつながっているので,それらの糸が逆に足かせになってしまい,全部でn匹の蜘蛛がいる場合,跳び越えていける距離が2匹だけの場合の1/(n−1) になる。
つまり,数学的に厳密に表現するなら,位置Aにいる蜘蛛がBにいる蜘蛛を跳び越えていこうとする場合,蜘蛛の着地点をCとするとCは線分ABをBの方向に延長した直線上にあり,を満たすということだ。
しかも,この最大距離は跳び越す蜘蛛と跳び越される蜘蛛の2匹の技量が完璧な場合にのみ達成され,実際は技量が完璧ということはないので,ある1未満の正の実数rが存在して,どのジャンプもを満足する。
さて,ヤマネの姪たちは蜘蛛たちをしばらく自由に遊ばせておきたいのだが,放っておくと限りなく遠くへ行ってしまって集めるのに大変な手間がかかりそうで,ためらっている。幸い蜘蛛たちはいま,東西に一列に並んでおり,それぞれの蜘蛛は西に傾き始めた太陽を追うように,自分よりも西にいる蜘蛛を跳び越して西向きにのみ移動している。そこで読者への問題だが,上述のような場合には蜘蛛たちが勝手にジャンプを繰り返しても,その行動範囲には限界があり,今いる範囲よりも限りなく西へ行くことがないことを証明して,姪たちを安心させてほしい。
また,ウォーミングアップ問題として,上の証明のためには蜘蛛たちの技量が完璧でないことが必要であり,もしとなるようなジャンプがいつでも可能ならば,蜘蛛が何匹いようとも,好きなだけ西に行くことができることを示していただきたい。
答えは,2020年6月号に掲載
