パズルの国のアリス

ハリネズミロボットの操作合戦(解答)

 有用な割には知名度の高くない幾何の定理に「トレミーの不等式」と「トレミーの定理」というのがあり,実は,問題はほぼストレートにそれを問うたものである。

 トレミーの不等式とは「平面上に4つの点A,B,C,Dをとると,その位置に無関係にAD・BC≦BD・AC+CD・ABとなる」ことを主張するものだ。それを認めると,ハリネズミの位置PでDを置き換えることにより,AP・BC≦BP・AC+CP・ABとなる。ヤマネの勝利条件はこの不等式の向きを逆にしたものだから,ヤマネが勝つための条件はトレミーの不等式で等号が成立することと同じだ。つまり,AP・BC=BP・AC+CP・ABとなることだが,その必要十分条件は,A,B,C,Pが同一円周上にあり,弦APと弦BCが交わることだ。この内容こそ「トレミーの定理」と呼ばれるもので,「不等式」よりは知られているようだ。

 トレミーの不等式の証明からはトレミーの定理が簡単に得られることが多い。また,三平方の定理(ピタゴラスの定理)は,ABPCが長方形をなす場合を考えれば直ちにわかるので,トレミーの定理の特殊な場合だといえる。

 さて,最初の問題の解だが,トレミーの不等式やトレミーの定理を援用して考えると,A(ヤマネの位置),B(帽子屋の位置),C(三月ウサギの位置)を通る円,すなわち三角形ABCの外接円の周上のどこかにハリネズミが到達すれば3人のうちの少なくとも1人が勝利条件を満たす。ABCの外接円周は点A,B,Cによって3つに区切られるが,ハリネズミが弧AB上に到達したなら三月ウサギの勝ちで,弧BC上ならヤマネ,弧CA上なら帽子屋の勝ちである。またA点にハリネズミが達したなら,三月ウサギと帽子屋の勝利条件が同時に満たされる。B点,C点も同様だ。それ以外の点ではだれの勝利条件も満たされない。

 従って結論としては,グリフォンの新しい提案では,3人がそれぞれ勝利する可能性はあるが,残念ながら十分公平とはいえず,自分の勝利に貢献する弧が長いほうが一般には有利といえる。弦BCが短ければ弧BCも短くなるから,3人が位置を変えずに勝負を続けるならヤマネに不利になる変更だ。

 しかしグリフォンの最初の提案では,例えばAB>AC,AB>BCのような場合,トレミーの不等式よりCP・AB≦BP・AC+AP・BCだから,いつでも

となり,三月ウサギは決して勝てない。よって,新しい提案は最初の提案よりは公平だといえる。

 次に,ハリネズミの代わりにドローンを使う場合だが,これは少し考えれば,ドローンが空中にあるときは3人とも勝利条件は決して満たされないことがわかる。なぜなら,A,B, Cは定点だからBP,CPが一定なら,APが最大となるのは,三角形ABCと点Pが同一平面上にありAとPが辺BCを挟んで反対側にある場合であることが明らかだからだ。その場合ですら,トレミーの不等式よりAP・BC≦BP・AC+CP・ABだから,APがより小さくなれば,逆の不等式が成り立つはずはない。というわけで,勝負がつくためにはドローンよりハリネズミでゲームをやったほうが無難だろう。

 3月号のパズルの解答については以上だが,解答に用いたトレミーの定理や不等式は,いくら認知度が高くないといっても,インターネット検索をすればその証明がいくらでも見つかる。だから,ここで丁寧に説明する必要はあまりない気もするが,2月号の解答で用いた「円反転」を利用した簡潔な証明があるのでそれを紹介しよう。

 簡単に復習すると,Oを中心とする円反転によって,Oを通る直線はそれ自身に,Oを通らない直線はOを通る円に移る。また,Oを通る円はOを通らない直線に,Oを通らない円はOを通らない円に移る。

 ここで,中心をAとする円反転を考えると,三角形ABCの外接円はBの像B′とCの像C′を結ぶ直線lに移る。さらにPの像P′を考えるとPがABCの外接円上にあれば,P′もまた直線l上に移る。特にPが弧BC上にあれば,P′はB′とC′の間にあるから,B′C′=B′P′+C′P′が成立する(下図)。

 2月号の解答では距離の話をほとんどしなかったが,中心がAで半径rの円に関してのBとCの円反転像をそれぞれB′とC′とすると,AB・AB′=AC・AC′=r2となる。だから三角形ABCと三角形AC′B′は相似なので,

であり,

が成り立つ。B′P′とC′P′についても同様の式が成立する。それらを先の等式に代入すれば

となり,分母を払うことでトレミーの定理が得られる。

 またPが弧BC上にない場合,P′は線分B′C′上にはないが,三角不等式により,一般にB′C′≦B′P′+C′P′は成り立つので,同様にトレミーの不等式が証明される。

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