パズルの国のアリス

トランプ王国の博覧会会場(解答)

このコラムの大先輩である一松信先生から簡潔な証明をお送りいただいたので,まずそれを紹介しよう。

 四角形ABCDが円に内接することを示すには,相対する角の和∠DAB+∠BCD=180°,従って∠DAB+∠BCD=∠ABC+∠CDAを示せばよい。ところが,下図のように4つの接点から接線を内側にのばし,AS,BT,CU,DVとすると,対称性より円の弦とその両端点での接線のなす角は等しいから

 ∠SAB=∠TBA,∠TBC=∠UCB
∠UCD=∠VDC,∠VDA=∠SAD

である。従って

 ∠ABC+∠CDA
=∠TBA+∠TBC+∠VDC+∠VDA
=∠SAB+∠UCB+∠UCD+∠SAD
=∠DAB+∠BCD
となる。

 実はこの問題の正攻法による証明をちゃんと考えずに出題したのだが,このような見事な解答に気づかなかったことについては恥じ入るばかりである。

 では,筆者がどうしてこの事実を知っていたかというと,からめ手から考えたからだ。その考え方は驚くほどに強力で,正攻法では厄介な図形問題がこの裏口攻めによってあっという間に解けることがある。特に円や直線が互いに接しているような図形ではほとんど万能かと思えるほどだ。それは「円反転」という変換を経由して考えることだ。円反転という用語がどれくらい認知されているかわからないが,英語の書物では「inversion」と表現されることがあるようだ。しかし,それではうまくイメージが伝わらないようだから,ここでは日本語で「円反転」と呼ぶことにしたい。

 仰々しい名前を与えはしたが,変換自体は簡単だ。平面上に円Cを1つ定め,その中心をOとする。円Cの半径をrとしよう。Oと異なる平面上の任意の点Aを取ると半直線OAが定まるが,OA上の点A′でOA・OA′=r2となる点がただ1つ定まる。このA′をAの(Cによる)円反転と呼ぶことにしよう。A′の円反転がAに戻ることは明らかだ。また,中心Oの円反転は存在しないが,無限遠点∞を導入し,O′=∞,∞′=Oと考えると,統一感が得られる。円反転はOを原点とした複素数表示を使うとすっきり表現でき,計算も簡単になるが,これはそういうことに詳しい読者にお任せしよう。

 円反転の性質をいろいろ調べていくと興味深いものがいくつもあり,それだけでこのコラム数カ月分になりかねないので,ここでは必要不可欠なものを厳選して述べていくことにしよう。直ちにわかることは,C上の点は円反転では動かないということだ。またCの外部の点の円反転はCの内部になり,逆に内部の点の円反転は外部になる。

 先の問題を解くうえで核心となる観察の1つは,円や直線が円反転によってどういう図形に移るかということだ。明らかにOを通る直線ll自身に移る。注意したいのは,直線上の各点は,Cとの交点を除けば,動かないわけではなく同じ直線上の別の点に移るということだ。

 次にOを通らない直線はどうなるだろうか? 答えは「Oを通る円になる」というものだ。右の図❶を見ていただこう。Oを通らない直線をlとし,Oからlに垂線を下ろしその足をH,その円反転をH’とする。l上の任意の点Aを取り,その円反転をA’とするとOH・OH′=r2=OA・OA′より,三角形OHAとOA′H′は相似である。よって∠OA′H′=∠OHA=90°であり,A′はOH′を直径とする円周l′の上にあることがわかる。

 図❶には念のため円Cを破線で描いておいた。Cの中心Oは重要だが,Cの半径はさほど重要でなく,Cが大きくなれば(その2乗の比率で)lの像である円l ′も大きくなるにすぎない。

 円反転のまた円反転がすべての点を元に戻すことを考えると,逆にOを通る円は円反転によって直線に移ることがわかる。また,その円のOを通る直径は(少なくとも延長すれば)反転像である直線と直交することもわかるから,例えば図❷のように2つ以上の円kmnlを共通接線としてOで接しているとき,それらは反転によって,lに平行な直線k′,m′,n′に移ることになる。

 では,Oを通らない円kはどうなるだろうか。答えは「Oを通らない円になる」というものだ。kの中心とOを結ぶ直線がkと交わる点をPとQとし,その円反転をP′とQ′としよう。さらにk上の任意の点をAとしてその円反転をA′とすると,例えばOがkの内側にある場合,図❸のような図が描ける。先と同様に∠OA′P′=∠OPA,∠OA′Q′=∠OQAだから,

 ∠Q′A′P′=∠OA′Q′+∠OA′P′
=∠OQA+∠OPA
=180°ー∠PAQ=90°

となるので,A′はP′Q′を直径とする円周k′の上にあることがわかる。Oがkの外側にある場合など,Ckの位置関係によって図は変化するが,基本的に同じ証明がどの場合にも有効で,Oを通らない円はOを通らない円に移ることがわかる。

 こうして,円反転は,どんな円や直線をも(Oを通るかどうかによって状況が分かれるが)別の円か直線に移すことがわかった。直線を「無限遠点に中心を持つ円」だと考えれば,「円反転は円を円に移す」といってもよい。さらに2つ以上の円や直線が接しているとき,それらの円反転像は,接点がOであれば平行な直線になるし,接点がO以外の点Aであれば,Aの円反転A′で接する円や直線になることはもはや自明だろう。

 これで2月号の問題にチャレンジする準備が整ったように思う。円反転を考えるときのツボは反転の中心としてうまい点を選ぶことだ。半径は図の縮尺を変えるだけだから,さほど重要でない。問題の展覧会会場の領域図の場合は,2つの領域の接点を中心に選ぶとよい。例えば,ハートとクラブの領域の接点であるAを中心に領域図を円反転してみよう。正確な図を描く必要はない。だいたいどんな図になるかわかればよいので,図❹のようなイメージがぼんやりと頭の中に描ければ十分だ。

 クラブ領域とハート領域はAで接する円なので,Aを中心に円反転すると,それぞれの境界は平行な直線lとmになり,クラブ領域とハート領域の反転像は,それぞれその左側と右側を占める。ダイヤ領域とスペード領域も円だが,Aを含んでいないので,それらの境界の反転像も円になり,クラブとダイヤ,ダイヤとスペード,スペードとハートの領域の反転像は,それぞれB,C,Dの円反転B′,C′,D′を接点として接する。

 さて証明したいことはABCDが同一円周上にあるということだが,これは反転像で考えればB′C′D′が(Aを通らない)同一直線上に並ぶということに他ならない。こう考えると,問題はほとんど解けたも同然だろう。反転像で考えたとき,ダイヤ領域の中心Pとスペード領域の中心Qを結ぶ線分は当然接点C′を通る。また,PB′はlと,QD′はmと直交し,lmは平行だから,PB′とQD′も平行である。よって∠PQD′=∠QPB′だから,2等辺三角形C′QD′とC′PB′は相似になり,∠QC′D′=∠PC′B′である。PC′Qは直線だったから,こうしてB′C′D′も直線をなすことがわかる。

 老婆心ながら,例えば図❺左のように直線B′C′D′が反転中心のAを通る場合,ABCDも同じ直線になって円を作らないことが心配になるが,円反転前の領域に戻して考えると,図❺右のように,1つの円の中に他の3つの円が含まれており,題意に合わないことがわかる。

問題はこちらです