パズルの国のアリス

正8面体サイコロに色を塗ろう(解答)

 対称性が関わるこの種の数え上げ問題には,「バーンサイドの補題」と呼ばれることが多い群論の定理が有用だ。この名で知られるようになったのは19世紀末のバーンサイド(William Burnside)の著作「Theory of Groups of Finite Order」のせいだろうが,定理自体は少なくともコーシー(Augustin Louis Cauchy,1789〜1857年)までさかのぼることができ,そのため「コーシー・フロベニウスの補題」とも呼ばれる。

 いろいろな述べ方があるが,ここではあとの説明に都合のいいように

という形で記すことにする。記号を説明しよう。まずXGX/Gだが,これらはいずれもある集合を表している。Xが一番わかりやすいだろう。ここでは,条件を満たすようなサイコロの色付け方で対称性を考慮しないものの全体と考えればよい。問題はGだが,これはサイコロの回転合同変換(元に重なるようなサイコロの転がし方)の全体である。#GGの要素の数,つまりそのような転がし方の総数だ。あとで述べるように,サイコロが立方体や正8面体の場合は#G=24である。X/GG内に含まれるある変換で一致するような色付け方は同一と考えた場合のパターンの全体で,その要素数#(X/G)がいくつになるかというのがハンプティに来た工場長からの相談だ。

 さて右辺の分子だが,xXgGに対し,gxは色付けしたサイコロxgで指定されたように回転させた結果のサイコロとする。つまりgx=xとはxgで回転させる前後で色模様が変化しないことを意味する。また[gxx]は,括弧の中が真なら1,偽なら0という値をとるものとしよう。つまり,xgで回転させて色模様が変わらないなら1,変わるなら0である。結局,右辺の分子は,あらゆる色付け方xXとあらゆる転がし方gGの組を考え,gxを変化させないような組の総数を数えたものだ。

 合同変換は数学で群と呼ぶ構造を作る。例えば,2つの変換を連続して行うと別の変換になり,どの変換もそれを元に戻すような変換があるなどの性質があり,そのことがバーンサイドの補題が出てくるゆえんだ。しかし,この式が成り立つことの厳密な証明は群論の教科書に任せることにし,立方体サイコロを例に,具体的問題にどのように適用できるかをある程度直感的に把握してしまおう。

 まず立方体の回転合同変換gGだが,これには5つのタイプがある。まったく動かさないというのも1つの変換であり,これをタイプIと呼ぼう。ほかは回転軸と回転角度によって分類できる。まず,相対する面の中心を結ぶ線分を軸として90°回転させる変換がある。これをタイプS4と呼ぼう。軸には上下,南北,東西の3つを考えることができ,回転方向も反対方向がありうるので,タイプS4は6個ある。また,同じ線分を軸として180°回転させる変換があり,これをタイプS2とすると,S2は3個ある。次に,相対する2辺の中点どうしを結ぶ線分を軸に180°回転させる変換をタイプE2とすると,軸は6通りあるので,E2は6個ある。最後に相対する2頂点を結ぶ線分を軸に120°回転させる変換をタイプV3とすると,軸は4通りあり反対方向の回転があるので,V3は8個だ。表にすると下の〈表1〉のようになり,立方体の合同変換は全部で24個,つまり#G=24だ。

 6色を1面ずつに使うというのが,パターン数は多いものの一番考えやすそうだから,それから始めよう。対称性を考えなければ,そのような色の塗り方が6!=720通りあることは,高校数学でおなじみだろう。つまり#X=720。さて,そのような色の塗り方xXのどれをとっても,タイプ以外の変換を行うと色模様は変化してしまう。従って[gxx] は,xが何であっても,gがタイプIのときは1,それ以外のタイプのときは0である。よって,式(A)より#(X/G)=720/24=30が得られる。これは,もし1つの色模様が合同変換によって24通りに変化するなら,見かけ上720通りある色模様の中には同じ模様から得られたものが24重に重複しており,実質的に異なるものは720/24通りしかないという事実を反映している。

 次にもう1つの極端なケースとして,6面すべてを1色で塗る場合を考えよう。このような塗り方は,対称性を考慮しなくても,もちろん1通りしかない。ところが,この塗り方xはどうサイコロを転がしても変化しない。言い換えれば,回転するたびに同じ色模様が現れるので,割る前にあらかじめ重複分を足しておこうというのが式(A)の右辺である。すべてのgGについて[gxx]=1となるから,式(A)より#(X/G)=24/24=1だ。

 もう1つ,先の2つほど極端ではない簡単な例を考えよう。6面のうち1つだけを赤く塗り,残りを白く塗る場合だ。転がして赤い面を合わせられることはすぐにわかるから,この場合も対称性を考えたパターン数#(X/G)が1であることは自明だ。だが,式(A) の様子は異なる。赤く塗る面は6面から選べるので#X=6だが,全面を1色で塗る場合に比べて対称性が少ない。ここから先は式(A) の右辺の分子を

と書いたほうが計算しやすいだろう。#Xgは変換gで変化しないXの要素数である。gがタイプIならば,もちろん#Xg=#X=6だ。gがタイプS4とS2の場合,赤く塗られた面を回転軸が通るならxgで変化しないから,このような塗り方は2通りあり,#Xg=2だ。gがタイプE2とV3の場合,赤い面は必ず移動してしまうから#Xg=0だ。以上をタイプごとに表にすると,下の〈表2〉のようになる。

 3行目の「計」の列にある数値は,各タイプのgの個数と#Xgとの積の総和(つまり1×6+6×2+3×2+6×0+8×0)で,式(A)の分子そのものになる。よって,確かに#(X/G)=24/24=1である。

 式(A)の意味について了解いただけただろうか? ウォーミングアップの締めくくりとして,立方体に2色を3面ずつに塗る場合,3色を2面ずつに塗る場合,2色を好きなだけ塗る場合のそれぞれを一気に表にして片づけてしまうと下の〈表3〉のようになる。

 2行目「同色グループ」は,回転gに対して対称性を保つために同じ色に塗らねばならない面の組がどうなっているかを表す。例えばgがタイプS4だとしよう。対称性を保つには,回転軸が通る2つの面は固定されているので,好きな色に塗ってもよいが,軸に平行な4つの面は互いに移りあうので,同じ色に塗らねばならない。つまり,6面が1,1,4の3つの同色グループに分かれることを意味する。表の下3行が塗り分けに使える色数の制約に応じた#Xgの値で,これを計算するのに面の「同色グループ」分けが有効だ。例えばタイプS2の回転では6面を1,1,2,2の4つの同色グループに分ける。よって,赤白で自由に色付けできる場合,各グループをどちらの色に塗るかで24=16種のパターンになることがすぐにわかるし,赤白を3面ずつに塗る場合,赤を塗る面は1面のグループと2面のグループから1つずつ選ぶしかないから22=4種あることがわかる。#Xgの各値については,数値とともにそのもとになった計算式を示してあるので,各自で確認されたい。

 #Xg の各値に「gの個数」をかけて和をとったものが「計」の列で,これが式(A)の右辺の分子にほかならない。結局,対称性を考慮したときのパターン数#(X/G)は,2色を3面ずつの場合48/24=2,3色を2面ずつの場合144/24=6,2色を好きなだけの場合(1色だけの場合も含む)240/24=10になる。この程度なら全パターンを調べ上げることもできよう。興味のある読者は確かめてみるとよい。

 さて正8面体のサイコロに移ることにしよう。問題で述べたように正8面体の合同変換群は立方体の場合と同型なのだが,混乱しないように5つのタイプに別の名前を付けよう。といっても,まったく動かさないというのは同じ名のタイプIでよいだろう。相対する面の中心を結ぶ線分を軸に120°回転させる変換をタイプS3,相対する2辺の中点どうしを結ぶ線分を軸に180°回転させる変換をタイプE2,相対する2頂点を結ぶ線分を軸に90°回転させる変換をタイプV4,同じく180°回転させる変換をタイプV2と名づける(実はローマ字や数字には意味がある。興味がある人は考えてみてほしい)。そして,先と同様な表を作ると下の〈表4〉のようになる。

 この結果,#(X/G)は,2色を4面ずつの場合168/24=7,4色を2面ずつの場合2736/24=114,2色を好きなだけの場合552/24=23になる。さすがにこの数になると,全パターンを調べ上げることは容易でないが,考え方は立方体の場合と同じだ。最後に,8色を1面ずつに塗る場合は,数は多いものの表に頼るまでもなく,計算だけで8!/24=1680種のパターンがあることがわかる。

問題はこちらです