パズルの国のアリス

続・勝負の決着を 早めるには(解答)

 最初の問題は,一見,それほどの差があるとは思えない2つの方法がいかに違った結果をもたらすかを味わっていただこうと出題したものだ。イモムシの提案した方法でやると,ダムの勝率がどのくらいになるかだが,計算しようとして,ちょっと場合分けが面倒だなと感じられた読者がおられるかもしれない。最短ではダムの5連敗で勝負がつくかもしれないし,18回目のコイントスが終わった時点では,ダムの14勝4敗で2人ともカードを1枚ずつ残していて,次の1回で勝負が決着するかもしれない。近年ではexcelなどの表計算ソフトを使えば,これらの場合を丁寧に計算しても簡単に答えは得られる。だが,実はこの計算には,2014年2月号の「先攻は有利か?」(『数学パズルの迷宮』第58話)で述べた消化試合論法が有効である。どういうことかというと,ダムかディーの一方のカードが尽きてしまっても,かまわずにコイントスを続けると考えることだ(片方のカードが尽きたあとは,勝負には関係のない無駄なコイントスなので消化試合というわけだ)。こうして合計19回コイントスを行っても,勝負の結果には影響が出ないことがミソだ。この試行で5回以上裏が出れば,ダムのカードはなくなっているからダムの負けだし,反対に裏が出たのが4回以内なら15回以上表が出たわけだから,ディーのカードのほうが尽きている。要するにダムが勝つための条件は19回のコイントスで裏がたかだか4回しか出ないことである。このような表裏の出現パターンの総数は

だ。これくらいなら手計算でも求められなくもない。ともかくパターンの総数は5036だ。一方,コインに偏りがないとすると,このパターンはどれも1/219の確率で出現するので,ダムの勝率は5036/219≃0.0096ということになり1%にもならない。

 次には折衷案にするとどういうことになるか考えてみよう。上の結果からも予想できるだろうが,結論から述べるなら,この場合は2人ともグループをなるべく細かく分けるほうが有利になる。このことを一般的に考えるためにダムがn枚でディーがm枚のカードを持っているとき,ディーがm枚のカードをa枚とb枚のグループABに分けて勝負したとする。ディーがどちらのグループで先に勝負しようとも,ダムが勝つには2回に分かれた勝負の両方に勝利せねばならないから,その勝率は,それぞれの積でn/(na)×n/(nb)ということになる。もしディーがグループに分けずに対戦したとしたら,ダムの勝率はn/(nab)になるが,nabは正の数だから,簡単な計算で前者のほうが小さいことがわかる。つまり,分割して勝負されるとダムは不利になる。

 2人の持っているカードの枚数が同じだったとしても,細かくグループに分けることが可能なら,それができるほうは自分の有利さを拡大することができ,その勝率は最大では1−1/e≃0.632に近づく(eはおなじみの自然対数の底で約2.718である)。また,最初の問題の結果が物語るように,より多くのカードを持つ側は,それらをなるべく細かい単位に分割すれば自分の有利さを驚くほど拡大できる。

 最後に,イモムシ方式で対戦するとき,あらかじめカードのグループへの分割の仕方が指定されていたとしたら,自分のグループをどういう順で対戦させるべきかという問題を考えてみよう。これも結論から述べるなら,グループ分けは重要な要因だが,その対戦順は最終的な自分の勝率になんの影響も及ぼさないということになる。

 このパズルの種本にもなっているウィンクラーの『とっておきの数学パズル』(日本評論社)では,上の事実を説明するために,n枚のカードグループを「寿命nの数学的に理想的な電球」で置き換えて考えている。この場合の対戦とは,2つの電球を同時に点け,先に切れたほうが負けということだ。「数学的に理想的」というのは「無記憶性」という言葉に変えてもよいが,その前にどのくらいの時間自分が点灯していたかを電球は覚えていない,つまりどの時点から計測を開始しても,電球は平均n時間で切れるということである(確率・統計の用語を使えば,電球の寿命は平均nの指数分布に従うといってもよい)。寿命nの電球Aと寿命mの電球Bで対戦すると,Aの勝率はn/(nm)である。このことは,同じ電球をたくさん用意して,次々に対戦させてみることを想像すれば納得できよう。長い時間tの中ではAはt/n個が切れ,Bt/m個が切れる。従って,ある時点から観測を始めたとき先に切れる電球がBである確率は

だからだ。

 結局n1,…,ns枚のカードグループとm1,…,m枚のカードグループとがイモムシ方式で対戦するとは,寿命n1,…,nsの電球族と寿命m1,…,mtの電球族が対戦し,その合計寿命を競うということに帰着させることができるので,対戦順とは無関係なことがわかる。

 実は,筆者は,この「数学的に理想的」な電球というのが,今ひとつピンと来ない。どんな電球だって,点けていれば自分自身の熱で劣化して寿命が短くなっていくだろうと思うからだ。そういう天邪鬼な考えから抜けられない人には,目の種類がn個あるルーレットを想像してもらうとよいかもしれない。この場合,2つのルーレット同士の対戦とは,一緒に回すということを何度も繰り返し,先に特定の目(例えば1)を出したら負けという形になる。もっとも,このモデルだって,ルーレットが長いこと1を出していないときにそろそろ1が出てきそうだと考えるような人を説得するのには役立たないが……。

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