ハート王室の金庫を開錠せよ(問題)
ハートの兵士たちがゾロゾロとイモムシ探偵局にやってきた。みな苦虫を噛み潰したような顔つきだ。「おや,大勢でめずらしい」と部屋の奥にいた局長のイモムシがふんぞりかえって言うのを無視して,手前で雑談中だったアリスとグリフォンに「いやはや,女王陛下ときたら,ひどいのなんのって」と口々に苦情をまくしたてる。
その要点を整理すると次のようなことらしい。先日,ハート王室の金庫を新調したので,ハートの女王が開錠のための暗証番号10桁を設定した。ところが,それを自分で覚えておくのが面倒だった女王は,兵士たちに1桁ずつ教えて,自分が聞いたら答えるようにと言った。ところがその数字に何の意味があるかもわからなかった兵士たちは,2〜3日もすると,そんなことを言われたこともろくに覚えていないくらいで,もちろん数字が何だったかはすっかり忘れてしまった。
その時金庫に入れたものは,どうやら兵士たちへのボーナス資金で,「忘れたから首をはねる」とは言わないものの,「金庫が開けられないなら,ボーナスを支給するのはやめだ」というのが女王の言い分らしい。
と言われても,忘れてしまった暗証番号についてはグリフォンとアリスだってどうしようもないはずだが,女王によれば,その番号を見せて何か面白い特徴がないかとグリフォンに相談したことがあったというのだ。そこでグリフォンが何か覚えていないかというのが,ハートの兵士たちの一縷の望みだ。
「そういえば,女王が数日前にオレのところに来て,何桁だったか整数を見せられたことがあったな。それかもしれない」とグリフォン。「そうか。少し思い出してきたぞ。末尾が5だったので,5で割ってみたら,また末尾が5になった。そこでもう1回割ったら,また5になった。そこで,また5で割るというのを繰り返していたら,なんと10回も割り切れたよ」。
「やったじゃないですか」とアリス。「きっと,それが女王の暗証番号に違いない。割り切れなくなったときの数値nがいくつかわかれば,暗証番号は510×nだから,簡単に復元できるわよ」。
「そんなこと言われても,さすがにnまでは覚えていないよ。でも510の倍数を次々に試してみればいいか?」これを聞いてハートの兵士たちの顔がにわかに明るくなったが,グリフォンが続けて「510=9765625だから10桁の整数の中には,その倍数がざっと1000個くらいあるね」と言うのを聞いて,またしゅんとなる。それでも1010,つまり100億種類を試すよりずっとましだが。
「でも」とグリフォン。「ほかにも特徴があったような。……そうだ,思い出したぞ。数字は全部奇数だった。つまり0,2,4,6,8は入ってなかった」。
結局,グリフォンの記憶は正しく,ハートの兵士たちは10桁の暗証番号を計算で復元できたのだが,読者諸氏にもこの問題に取り組んで,暗証番号を復元していただきたい。また,余裕のある読者は,「末尾が5だったので,5で割るというのを繰り返していたらなんと10回も割り切れた」というグリフォンの言葉を,「末尾が1だったので,1引いて5で割るというのを繰り返していたらなんと10回も割り切れた」に変えた場合について,同様の問題に挑戦していただこう。
答えは,2017年7月号に掲載
