パズルの国のアリス

続・賢者たちのチーム戦(問題)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 2014年5月号6月号はイモムシ探偵局主催で賢者たちを集めて行われた推理コンテスト大会の話だった。集まった参加者たちが完璧な論理で問題の答えを正しく推理したために,かえって面白みが減ってしまって,あまり評判のよくない結果に終わったコンテストもあったが,チーム戦では,戦略をうまく立てたにもかかわらず大勢の中には迂闊にも間違える者もあり,結構意外な結果が生じて好評を博した。そこで,団体戦だけでも,もう一度やってみようということになり,イモムシ探偵局ではアリスにも手伝ってもらって助手のグリフォンを中心に問題作成に熱が入っている。

 いつも大会委員長を仰せつかるだけで満足している局長のイモムシが,今回こそは問題作りでも貢献しようと妙に張り切っていて,次のような推理ゲームを提案した。例によって,賢者たちは好きな人数のチームを作って参加する。チーム全員を一部屋に集めそれぞれに数値つきの帽子をかぶせる。チームの人数がn人の場合,帽子の数値は0からn−1までのどれかだが,各人の数値はまったく無関係である。例えば,全員が同じ数値の可能性もあるし,別々の数値の可能性もある。皆,自分の数値は見えないが,他のチームメイトの数値は見える。その後,各人は隔離され自分の数値を当てるというゲームだ。他の人の数値から自分の数値をどう推測するかについては,チームメイト間で事前に十分に相談することが許される。

 問題は得点である。イモムシの考えでは,「どのチームも当たった人数がそのまま得点になるというのでよいのではないか? でたらめに答えた場合,n人チームでは1人あたりの正解確率が1/n だろう。だから全員では1/n×n=1が得点の期待値になり,チームの人数によらず一定だから人数による有利不利はない」。これに対しアリスは「でも,うまい戦略を立てると,その期待値が上がるのかしら?」と疑問顔だ。「そうでないと,当てるといってもただの運試しになってしまい推理コンテストにならないわ」。しばらく考えていたグリフォン,「うーむ,だめだね。どんな戦略を使っても期待値はいつも1だ」。

 イモムシの自慢気な顔がしょんぼりしていくのを,アリスがそらご覧なさいという目で見ていると,突然グリフォンが「……待てよ。そうか,得点のルールを少し変更すれば,面白い推理ゲームになるかもしれない」といって次のような変更を提案した。

 変更案1:どのチームも全員が正解したときのみ,人数分の得点が得られる。1人でも不正解者がいた場合,そのチームの得点は0である。

 変更案2:どのチームも1人でも正解すれば得点1が得られる。全員が不正解であれば得点は0である。

 「えー?」とアリスは不信感丸出しだ。「だって,案1なんて,全員が正解しなくちゃいけないんでしょ。人数の多いチームのほうが得点が多くなるとはいえ,そんなの絶望的よ。逆に案2は,1人あたりの正解確率は下がるけれど,誰か1人が当てればいいんだから人数が多いほうが有利な気がするわ」。

 グリフォンは「それは当てずっぽうの場合だろ。うまく戦略を立てれば,このどちらの案の場合も得点期待値は1だから,大丈夫だ。そうだね,この2案を取り混ぜて何セットか試合を行い,得点を競うというのはどうだろうかね」。

 読者の皆さんには,これらのグリフォンの言葉の根拠を考えていただきたい。まず,(正解者数がそのまま得点という)イモムシの提案のままでは,何人のチームでどういう戦略で臨んでも得点期待値が1になることを説明してほしい。また,案1でも案2でも,イモムシの提案に比べ得点は減ることがあっても増えることはないので,期待値は1以下だが,グリフォンによると,うまく戦略を立てれば期待値が下がることを食い止められるという。特に案2の場合,得点はいつも1以下であることを考えると,必ず1人は正解する戦略があることを意味する。それらの戦略とはどういうものだろうか。


答えは,2017年1月号に掲載

再録『パズルの国のアリス3 ハートの女王とマハラジャの対決』

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