パズルの国のアリス

顔色をうかがい合うクラブ王室の面々(解答)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 この問題は「ポリアの壺」と呼ぶ有名な確率の問題を下敷きにしている。もとのポリアの壺の問題は次のような形で出題されることが多い。

 壺に赤球がa個,白球がb個入っている。その中から球を1つ無作為に取り出し,その球の代わりに同じ色の球をc個壺に加える。この試行をn回繰り返す。n回目の試行の直前には,壺の中にab+(n−1)(c−1)個の球があることになるが,このn回目の試行で赤球を選ぶ確率を求めよ。

  大学入試などでもときどき出題されることがある。読者には,クラブ談話室の模様替え問題がポリアの壺のc=2の場合と本質的に同じだということは,納得していただけるだろう。

 さて,ポリアの壺の答えだが,実はnにもcにも依存せず,いつでもa/(ab)になることに特徴がある。実際,c=1の場合が「復元抽出」というものになり,この場合は上の答えは明らかだろう。c=0の場合が「非復元抽出」というものになり,明らかと言ってよいかどうかはともかく,答えがいつでもa/(ab)になることはよく知られている。くじ引きをするとき何番目に引こうと,当たる確率には影響しないということだ。

  一般のcの場合を数学的帰納法などで厳密に解こうとすると,うまく考えないと比較的難題になってしまうかもしれない。参考のために,まずこの問題に帰納法による厳密な証明を与えておこう。1回目の試行では赤球を選ぶ確率がa/(ab)になることは明らかだ。n回目の試行での上の確率が正しいとして,n+1回目を考える。最初の試行で,赤球を選ぶ確率はa/(ab)であり,そのとき次の試行では赤球がac−1個,白球がb個になる。逆に白球を選ぶ確率はb/(ab)であり,次の試行では赤球がa個,白球がbc−1個になる。最初から数えてn+1回目の試行とは,この初回の試行が終わってから数えるとn回目の試行であり,これに数学的帰納法の仮定を適用すると,n+1回目に赤球が選ばれる確率は,最初に赤球が出た場合(ac−1)/(ac−1+b)であり,白球が出た場合a/(abc−1)だ。よって,最初の段階から考えるとn+1回目に赤が選ばれる確率は

となる。帰納法を適用する際に,初回の試行と後のn回の試行に分解することがポイントで,これを間違えると面倒なことになるだろう。

  しかし,大学入試の解答ならば上のような証明が好まれるだろうが,うまく考えるとほとんど計算なしで同じ結論が得られる。それは,すべての球に番号を振っておき,各試行では選ばれた球の代わりに同じ番号の球をc個加えると考えることだ。最初はどの番号も1つずつなのだから,途中がどうあれ,n回目に2番が1番より高い確率で選ばれる理由はない。つまり,n回目に選ばれる番号はどれも等確率であり,その番号のうちa個が赤球,b個が白球なのだから,赤が選ばれる確率はa/(ab)である。

 このことを踏まえると,クラブ談話室の模様替えの最初の問題は,次のようにあっさり解けてしまう。10人の兵士のそれぞれが女王派になる確率は2/3である。よって期待値の加法性により,女王派になる兵士数の期待値は20/3である。これに最初から女王派だったジャックと女王自身を加え,女王派の人数の期待値は26/3≃8.667である。

 次の問題は,女王派と王派の人数によって分類し,さらに精密に確率を計算しないといけないと思われた読者がおられたかもしれない。確かにそういう計算をすることも難しくはない。最終的な女王派と王派の人数の分布は,兵士全員が女王派になる12-1から全員王派になる2-11まであり得るが,この11通りのパターンの起こりやすさは順に11:10:…:2:1の比率になる。計算に自信のある読者は確かめられたい。したがって,求める期待値は,多数派と少数派の差の重みつき平均を計算して

である。

 ところが,この問題にも,もっと簡便な考え方がある。まず,ジャックが女王派だと述べたが,仮にジャックが王派だったとしても,この問題は対称的なので答えが変わらないことに気がつく。ということは,ジャックも兵士の1人と考えれば,最初に赤球と白球が1つずつのポリアの壺でc=2,n=11の場合を考えているのと同じことになる。この場合,女王派と王派の分布は12-1から1-12まであり得ることになるが,実はあとで述べるようにその起こりやすさはどれも均等である。したがって問題の期待値は

としてさらに簡単に計算できる。

 上の場合の各分布の起こりやすさは均等と述べた。そのことはもちろん帰納法でも確認できるが,次のように考えるほうがうまいようだ。まず,クラブのクイーンとジョーカーとクラブのキングのカードを用意し,この順に上から並べる。そして残りのクラブのカード11枚をクイーンとキングの間のどこかに順次差し込む。このとき各カードを差し込む位置は等確率で選び,ジョーカーより上のカードは女王派になり,下のカードは王派になると考えると,クラブ談話室での意見聴取の状況が再現される。この結果,どの段階でもキングとクイーンを除くカードが位置が完全に一様ランダムになることは納得していただけよう。当然,最終的なジョーカーの位置も一様で,どこにあるかは等確率だ。

 ところで,この2つの問題の結論は,多くの人の意表をつくようである。試行回数が多くなるにつれ女王派がどんどん増え,最後のほうでは王派になることがほとんどなくなると考える人が多いようなのだ。読者はいかがだろうか?

参考にした本
Mathematical Puzzles:A Connoisseur's Collection(2004),
Mathematical Mind-Benders(2007) P. Winkler。
邦訳は『とっておきの数学パズル』(2011年),『続・とっておきの数学パズル』(2012年),ピーター・ウィンクラー著,坂井公・ 岩沢宏和・小副川健訳,日本評論社。

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