園遊会でのゲーム(問題)
鏡の国のチェス王宮で園遊会を行うという。不思議の国のトランプ王室の王侯たちや,なぜかお茶会3人組なども招かれてにぎやかそうだ。アリスも,一応見習い女王という資格があるので,名目だけだがホスト側として参加した。
さすがにチェス王宮というだけのことはあり,庭園は全体が正方形で,たくさんの四角のマス目に仕切られて相当遠方まで続いている。芝だけのマス目と色とりどりの花々で飾られたマス目が1つおきに配置されているので,ちょっと見た目には市松模様が描いてあるかのように見え,いかにもチェス盤を彷彿とさせる。
園遊会といっても,ゲーム好きのチェス王室のことだから,花などの自然を愛でているのは始まってからわずかな時間だけで,ホストや客自身が駒になって,チェスやチェッカーなど様々なゲームが始まった。
赤白の女王もなにやらゲームらしいものを始めたので,アリスはその見学だ。ルールを聞くと, 「なんじゃ,見習いとはいっても,そういうことも知っておかんとな……。ほら,あそこに白い大きな花が咲いていて目立つマス目があるじゃろう」と赤の女王。そして手にした小さなジョウロを見せ,「そこへ行って,あの花に水をやるのが目的じゃ」。
「えっ,どうしてそれがゲームになりうるの?」という顔をアリスがしたので, 「ジョウロは1つしかないじゃろ」と白の女王が説明を加える。「これを赤の陛下とわらわとで代わる代わるに持つのじゃ。持っている間にできることはただ1つ。縦横斜めのいずれかの方向に好きなだけ進むこと。つまり,普通のチェスでわらわたちができる1手分の動きじゃ。あの白い花のマス目に着いたとき,ジョウロを手にしていたものが水やりの権利を持つ。つまり勝ちということじゃな」。
「ああ,そうそう」と赤の女王が補足する。「ジョウロを持って花から遠ざかる動きをすることは禁じられている。ゲームがいつまでも終わらないと困るからのう」。
ゲームのルールをもっと数学的に述べてみよう。白い花のマス目の座標を(0,0)として, 女王たちがいるマス目の座標を(m,n)(mとnは非負の整数)とするなら,どちらの女王も(ジョウロを持って)1手でできる動きは,次のいずれかを満たす座標(m‘,n‘)のマス目に行くことだ。
・m‘=m,0≦n‘<n(縦に進む)
・0≦m‘<m,n‘=n(横に進む)
・0≦m‘<m,0≦n‘<n,
m−m‘=n−n‘(斜めに進む)
ここで,読者への問題であるが,座標(4,6)にいた場合にそのときジョウロを持っている者(先手と呼ぼう)はどこへ進むのがよいだろうか? また座標が(4,8)や(5,9)にいた場合はどうだろうか? さらに余裕のある読者は,一般に後手が勝ちになる座標を特徴づけていただきたい。また,先手勝ちの座標にいた場合に,先手の次の1手を一般的に述べられるだろうか?
アリスが女王たちと別れて庭園内を巡っていると,今度はトウィードルダムとトウィードルディーの双子が似たようなゲームをやっているところに出くわした。ゲームの目的ややり方はほぼ同じだが,ゴールの位置は横にまっすぐマス目を進んで行けばよい位置にある。だから女王たちと同じルールなら初手でゴールまで進んで先手の勝ちであるが,双子のゲームでは進んでよいマス目数に制限がある。初手では途中までなら好きなマス数を進んでよいが,ゴールまで一気に行くのは反則だ。その後は直前に相手が進んだマス数の2倍まで進むことができる。たとえば初手に4マス進んだとしたなら,次に進んでよいのは1から8マスまでの間だ。
さて読者には,このゲームで先と同様のことを考えていただこう。たとえば,ゴールの座標を0とし,双子の座標を6とするなら,先手は最初に何マス進むのがよいだろうか? 最初の座標が10,12だったとしたらどうだろうか? 一般的に後手勝ちになる座標を特徴づけできるだろうか? 先手勝ちの座標にいた場合,先手の第1手を一般的に述べられるだろうか?
答えは,2015年12月号に掲載
