パズルの国のアリス

シャイで人見知りな一匹狼たち(解答)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 この問題に対して筆者が最初に用意してしていた答えは,「2匹の狼がどこかで遭遇することは決して避けられない」というものだが,そのための条件を1つ,うっかり書き落としてしまったようだ。それは,「狼たちの散歩は,同時に始まるだけでなく,同時に終わる」ということで,この条件が無い場合は,誰も遭遇しないような散歩コースが可能である。

 たとえば,北極と南極に1匹ずつ狼が住んでいて,他の狼は赤道上にある間隔を空けて住んでいるとしよう。また赤道上の狼たちの互いの地所の境界は経線に沿っていて,極に住む狼との境界は1本の緯線とする。そして,赤道上の狼は,全員自分の地所の東の境界の赤道上の点から等速度で歩き始めるとする。このとき,両極の2匹は,自分の地所との境界に他の狼たちが達する前に,さっさと回り終えて家に引っ込んでしまうとする。この場合,どこにも遭遇が起こらないということは了解していただけよう。

 ところが「散歩が終わるのも同時」という条件があると,両極の2匹は,回り終わってもさっさと家に引っ込んでしまうことはできないので,遭遇が生ずる。

 さて,このことの一般の証明だが,一番,簡単な場合として,狼が2匹だけのときを考えてみよう。たとえば,1匹が北半球,別の1匹が南半球に住んでいて,地所の境界が赤道というような場合だ。このときは,2匹がそれぞれ自分の地所を反時計回りに巡るという条件により,北の狼は赤道に沿って西から東へ,南の狼は東から西へ進むことになり,分かれ道もないからやがてどこかで出会ってしまうことは明らかだ。

 実は,狼が何万匹もいてそれぞれの地所の配置がもっとずっと複雑であっても,どこかで2匹の狼が遭遇することは避けられないのだが,それはどうしてだろうか? 散歩のスタートの時点で,どれか1匹の狼aに着目しよう。aの家Aからaのスタート地点までをその地所内の曲線で結ぶ。その曲線をフェンスを越えて延長し,隣の家B,さらにはそこの住人bのスタート地点まで結ぶ。各地所は1つながりだからこれが可能なことは明らかだ。さらにフェンスを越えて次の家C,そこの住人cのスタート地点という具合に次々と曲線で結んでいくことを考える。ただし,ある狼のスタート地点が,いくつかのフェンスがちょうど交叉している場所(以下では頂点と呼ぶ)だった場合,「フェンスを越えた隣の地所」というのが曖昧になるので,そこから少し反時計回りに進んだ地点でフェンスを越えることにする。こうして,家と狼を次々に結んでいくと,その惑星の人口がいくら多くても有限には違いないから,やがてどこかで同じ家に戻ってきて輪ができる。

 この輪は,どこをどういうふうに通るにせよ,自身と交叉することがないから,惑星の表面上に描かれた単純閉曲線となることがポイントだ。つまり,輪は惑星面を2つの部分に分ける。しかも,その曲線上にスタート地点を持つ狼たちはどれも(自分の地所を反時計回りに巡るという制限により),輪の同じ側に向かって進んでいく。それらの狼たちが向かう側を輪の「内側」,反対側を「外側」と呼ぶことにしよう。

 今,そのような輪を1つとり,その内側にある頂点(フェンスの交叉する点)の数nを数えてみよう。仮にn=0,すなわち輪の内側には頂点がなかったとする。このときは,明らかに輪は2つの地所のみを通り,2つの家AとB,その住人aとbのスタート地点をA-a-B-b-Aと順につなぐものになる。するとこの2匹の狼は分岐のない1つのフェンスに沿って,互いの方へ進むしかないから,歩くスピードをどう調整しようと,遅かれ早かれ遭遇は避けられない。

 では,n>0ならどうなるだろう。この場合,輪の上の狼たちはすべて輪の内側に向かって進んでいくので,輪も狼にくっついたまま移動するなら,輪は時間の経過とともに次第に縮んでいくということになる。したがって,狼のうちの1匹(xとしよう)はやがてどこかの頂点を通過することになり,その頂点は輪の外に出る。このとき,xの隣の家や狼も入れ替わり,内側にあった他の頂点も輪の外に出ることがあるが,新しい輪は元の輪の内側に形成されるので,外側の頂点が輪の内側に入ってくることはないから,nは確実に1以上減る。つまり,輪の内側の頂点の数nは,時間が経過するにつれて単調に減少し,やがて0になる。そして,そのときに輪を形成している2匹の狼は,先と同じ理由で早晩破局を迎える。

 念のため申し添えるなら,「同時に散歩を終える」という条件がないと,上の証明において,xが頂点を通過して隣人が入れ替わったとき,新しい隣人が既に家の中に引っ込んでいないとも限らず,内側の新しい輪の形成が保証されなくなる。

参考にした本
Mathematical Puzzles:A Connoisseur's Collection(2004),
Mathematical Mind-Benders(2007) P. Winkler。
邦訳は『とっておきの数学パズル』(2011年),『続・とっておきの数学パズル』(2012年),ピーター・ウィンクラー著,坂井公・ 岩沢宏和・小副川健訳,日本評論社。

問題はこちらです