パズルの国のアリス

距離を測る塗料(解答)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 最初の問題に対するシステマティックな手法としては,次のやり方がわかりやすいかもしれない。1mの長さにわたって塗料をベッタリと塗れば,0mから1mまでのどんな長さでも測れることは明らかだが,それをやめて真ん中1/3の部分は塗らないでおく。すると,1/3m以下の長さは,計測棒の両端にあるどちらの塗布箇所でも測ることができる。また,1/3mから1mまでの長さは,計測対象の一端を2カ所に分かれた塗布箇所の一方に当て,他端をもう一方の塗布箇所に当てるようにして計測棒を置き,その当たっている2カ所を針で触れれば計測することができる。

 次は,さらにその計測棒の両端にある塗布箇所から,それぞれの真ん中1/3の部分を除くことにしよう。すると結局,計測棒の塗布箇所は下図のように4カ所になり,左から0〜1/9,2/9〜3/9,6/9〜7/9,8/9〜1mのところに黄色い塗料が塗られることになる。それぞれの塗布箇所を左からA,B,C,Dと名づける。0〜1/9mの長さを測るときはA内の2点だけで,1/9〜3/9mはAとBの1点ずつ,3/9〜5/9mはBとC,5/9〜7/9mはAとC,7/9〜1mはAとDの点を使えば測ることができる。

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 計測法は省略するが,さらにA,B,C,Dの各部分から真ん中の1/3を除いても大丈夫だ。実は,この構成はどこまでも続けられ,残った各部分からそれぞれの1/3を除いていくということを何回繰り返しても,0〜1mのどんな長さでも1回で計測できるという性質は残ったままである。塗布箇所全体の長さがn回目では(2/3)nになることは容易にわかるから,理論的には塗布箇所の長さをいくらでも小さくすることができる。

 閉区間[0,1]から真ん中1/3(開区間)を抜き,残った区間のそれぞれからまた1/3を抜き,……ということを無限回繰り返してできる集合Tは,カントールの3進集合(または3分集合)などと呼ばれる。フラクタル理論などでしばしば言及されるもので,その測度は0である,つまり長さは0と考えることができる。Tの要素は,0.d1d2d3…と3進表記したときにdii=1,2,…)として数字1を使わずに0と2だけを用いて書ける実数からなり,そのことからDT)=[0,1]となることを示すことができる。したがって,上のように1/3の区間を抜いていく途中で生ずる集合Sは,どれも3進集合Tを部分集合として含み,常にDS)=[0,1]が成り立つ。だから,白騎士の計測棒は,工作上の限界がなければ,塗料を塗った部分を好きなだけ減らすことができる。

 上のやり方では,最初に真ん中1/3の区間を抜くと塗布箇所は0〜1/3,2/3〜1の2カ所に分かれるが,その長さの合計は2/3mで1/2m以上になる。次に,残った部分それぞれからその1/3を抜くと,全体では4カ所に分かれるが,その長さの合計は4/9mで1/4m以上である。次の問題は,これを一般化して,Sk個の連続した区間に分かれていて DS)=[0,1] が成り立つ場合に,Sの各区間を合計した長さが 1/k以上になることを証明することだ。

 一般にSk個の閉区間S1S2, …, Skに分かれているとして,各Siの長さをsiとおき,ss1s2+…+skとしよう。異なる区間SiSjとから1つずつ選んだ2点の間の距離の全体Dij={│ba││aSi, bSj}は閉区間で,明らかにその長さはsisjである。ijの対を全部考えてDijの長さの総和Σ i<jsisj)をとると,(各sik−1回現れるから)(k−1)sである。同じ区間Siから2つの点を選んでその差として計測できる距離の全体Diiの長さはもちろんsiだから,結局DS)の測度は,高々ksとなり,ks≧1より s≧1/kが得られる。

 この議論は,相当にきつい条件設定になっており,s=1/k を現実に達成するには,どの2つのDijもその共通部分が高々1点でなければならないことが明らかだ。特に D11から Dkkまでのどの2つも共通部分が1点であるためには,1つを除いて全Skが1点集合であることが必要だが,長さが0という塗布区間を作るのは現実には不可能かもしれない。しかし,たとえばS1=[0,1/k],S2={2/k},…,Sk={k/k}とすれば,D1i=[(i−1)/ki/k]となり,理論的には確かにDS)=[0,1] かつs=1/kが達成されるから,少なくともそれにいくらでも近づけることはできよう。

参考にした本
Mathematical Puzzles:A Connoisseur's Collection(2004),
Mathematical Mind-Benders(2007) P. Winkler。
邦訳は『とっておきの数学パズル』(2011年),『続・とっておきの数学パズル』(2012年),ピーター・ウィンクラー著,坂井公・ 岩沢宏和・小副川健訳,日本評論社。

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