パズルの国のアリス

近所づきあいは御免だ(解答)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 まず問題の出典について述べよう。前に『確率のエッセンス』という本からパズルの題材をとって紹介したことがある(2014年2月号その解答)が,その著者の岩沢宏和氏がかつて「数学セミナー」に連載していた記事をまとめて,『確率パズルの迷宮』という本を日本評論社から最近出版された。その名の通り,この本はしばしば直感を裏切る確率というしろものを題材としたパズルのオンパレードであり,まさに「快刀乱麻を断つ」という表現がふさわしいくらいに,正攻法で解くと面倒な計算を要する問題をエレガントな手法で切りまくる名著なので,本の紹介を兼ねてここから題材をいただいた。

 最初の問題は,比較的よく知られた問題をアレンジしたものである。類似のものとしては,「円周上にランダムな3点を選んだ時,それが鋭角三角形になる確率」とか,「1本の棒をランダムに3分割して,それで三角形を作れる確率」というような問題がある。ちょっと意外に思うかもしれないが,あとで述べるようにその答えは1/4である。

 上の問題のパラメーターの3を4に変え,条件を逆にしたのが最初の問題で,「円周上にランダムな4点を選んだ時,どこかに直径を引いてその4点が同じ半円の上に来るようにできる確率」とか「1本の棒をランダムに4分割して,四角形が作れない確率」と言ってもよい。これらが本質的に同じ問題であることは,考えれば納得していただけると思う。

 さて,ハートの別荘から出発して周遊路を反時計回りに進むことを考えよう。もし,10km進んでも,すなわち半周しても,トランプ王室の他の別荘に出会わなかったら(この事象をHと呼ぶことにする),そのコースの真ん中に地所を購入すれば,明らかにジョーカーは別荘をどの王室からも5km以上離すことができる。Hが起こる確率はどのくらいだろうか。これは,スペード,クラブ,ダイヤの各王室の別荘がすべて,ハートの別荘からは反時計回りより時計回りの方が近い位置に建っていたということであるが,各王室の位置はランダムなのだから,その可能性は(1/2)3=1/8である。同様にスペード,クラブ,ダイヤの各王室の別荘から出発した場合も,反時計回りに回って半周するまでに他の別荘に出会わない(これらの事象をそれぞれS,C,Dと呼ぶ)確率は,どれも1/8である。逆にどの王室の別荘から出発しても,半周する前に他の別荘に出会うようであれば,ジョーカーの望みの地所がないということは明らかだろう。

 ここで,事象HとSが同時に起こることがあるかを考えてみよう。これは,ハートの別荘からスタートしてもスペードの別荘からスタートしても,半周する間にほかの別荘に出会うことがないということだが,2つのコースを合わせて1周分を回ってしまっているのだから,そんなことはありえない。つまり,事象HとSは排反ということになる。事象CとDについても同様だから,この4つの事象はすべて排反であり,そのいずれかが起こる確率は,それぞれの確率の和になる。したがって,ジョーカーの希望が満たされる確率は1/8×4=1/2である。

 別荘の数を一般のnに拡張しても,この考え方はそのまま使えるので,その場合,ジョーカーの望みがかなう確率はn/2n−1である。先の「1本の棒をランダムに3分割して,それで三角形を作れる確率」という場合,n=3で,ジョーカーの望みがかなわない方に該当するので1−3/22=1/4という確率になるのだ。

 実は,第2の問題も同様に考えれば解ける。どこの別荘からも6km以上離れたいというのは,例えば,ハートの別荘からスタートし反時計回りに12km進むまでに他の別荘に出会わなければ達成される。その確率は,(20−12)/20=2/5の3乗,すなわち8/125である。スペード,クラブ,ダイヤのどの別荘からスタートした場合でも同様であり,これらの事象はやはり排反だから,このやや過大な要求が満たされる可能性は8/125×4=32/125となる。離れたいという要求が5kmより小さくなっても同じような論法は機能するが,先の事象が排反でなくなるので,計算式は複雑になる。 結果だけを記すなら,4km以上離れられる可能性は,別荘が3つの場合は24/25,別荘が4つの場合は102/125になる。この種の計算が得意な読者は確認されるとよい。

 ここまででも十分エレガントではあるが,この解法は知っていた読者もおられるだろう。しかし,最後の球面の場合の解答は,少なくとも筆者は岩沢氏の本で(より正確を期すなら,岩沢氏が数学セミナーに書いた記事で)初めて知ったもので,実に見事な手法に感動すら覚えたので,いつかパズルの国のアリスの題材に使わせてもらおうと考えていたものだ。

 いきなり別荘の数をn個にして一般の場合を考えてしまおう。まず,元の問題からはちょっと逸脱するようだが,球面に大円をn個ランダムに描いた場合,それらによって仕切られる領域がいくつあるかを考えよう。その数をpn)とすると大円3つまでは簡単に頭の中に思い描くことができる。すなわちp(1)=2,p(2)=4,p(3)=8である。しかしながら,領域数はこのまま倍々となっていくのではない。1つの大円は別の大円と必ず2点で交わる。3つ以上の大円が1点で交わる確率は0だと考えてよいから,すでにn個の大円があるときに,新しく加えた大円が元からある大円と交叉する交点の数は2nだ。これらの交点は新しく加えた大円を2nの部分に分割し,その2n個の円弧が(n個の大円が球面に作っていた)pn)個の領域をさらに細分する。したがってpn+1)=pn)+2nであり,この漸化式を解くとpn)=n2n+2となる。

 さて,元の問題に戻って,不動産屋が次の情報をくれたら,ジョーカーにとって状況が改善されるか考えてみよう。不動産屋は,n個の各別荘の位置とその球面上正反対の位置(対蹠点,たいせきてん)を対(ab)として教えてくれるが,各別荘がabのどちらにあるかは教えてくれないとする。実はこの情報はジョーカーの役に立たない。実際,球面上の任意の点を選んだとき,その点がどの別荘からも5km以上離れている確率は1/2nである。なぜなら,球面上のどの点も,ある対蹠点対abとの距離は,一方が5km以上なら他方は5km以下であり,そのどちらに別荘があるかわからない以上,5km以内にその別荘がある確率はどれについても1/2だからだ。

 今,n組の対蹠点対(a1b1),……,(anbn)が与えられているとする。球面上の1点xに対して,対蹠点のうち遠いほうを選び出して並べたものをRx)とする。例えばRx)=a1b2a3anならば, xにはa1のほうがb1より遠く,b2のほうがa2より遠く,……, anのほうがbnより遠いという具合だ。もし,各別荘がRx)の示す位置に建っていれば,地所xを購入することでジョーカーの望みは達せられる。逆にどのRx)にも一致しないパターンで別荘が建っている場合,そのどれからも5km以上離れている地点は存在しない。

 xが変わればRx)も変化するが,そのバラエティはどのくらいあるだろうか? 実はこれが,先に計算したpn)である。対蹠点対(ab)を両極として赤道を描けば,それはもちろん大円をなし,球面の点は,その大円のどちら側にあるかでabのどちらに近いかが決定する。つまり対蹠点がn対あればそれを両極とする赤道(大円)がn個決まり,それらが仕切る領域のどこにxが属するかでRx)が定まる。よってRx)のパターンは,各対蹠点対の位置にかかわらず,全部でpn)通りある。一方,実際の別荘の位置のパターンは明らかに2n通りあり,これらが起こる確率は均等だから,ジョーカーの希望通りの地所が存在する確率はpn)/2nである。

 今の議論は,与えられた対蹠点対の数nにのみ依存し,その位置にはまったく無関係である。したがって,対蹠点対の位置がまったくわからなくとも同じことで,n=4の場合,球面でジョーカーの望みがかなう可能性はp(4)/24=14/16=7/8だと言える。

参考にした本
Mathematical Puzzles:A Connoisseur's Collection(2004),
Mathematical Mind-Benders(2007) P. Winkler。
邦訳は『とっておきの数学パズル』(2011年),『続・とっておきの数学パズル』(2012年),ピーター・ウィンクラー著,坂井公・ 岩沢宏和・小副川健訳,日本評論社。

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