パズルの国のアリス

ババが2枚のババ抜き(解答)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 問題やそれに用いたジョーカーが2枚あるババ抜きというゲーム自体は,筆者が考案したものだが,それを思いつくにあたっては,多少経緯がある。それから始めよう。

 パズル好きの人が集まるサークルで「パズル懇話会」なるものがある。そのサークルの運営するメーリングリストで岩井政佳氏が「ババ抜きは偶数枚持ちの人が有利なのでは?」という問題を提起したのが発端といえる。

 まずババ抜きのルールを確認しておこう。ババ抜きは,囲碁,将棋,チェス,コントラクト・ブリッジなどとは違い,世界的に通用するルールが決まっているゲームではないが,ゲームに関するルールブックとして比較的権威のある「Hoyle’s rules of games」(2001年,第3版)のOld Maid(ババ抜き)の項を見ると次のようになっている(訳は筆者)。

 標準的なトランプ1組からクイーンを1枚抜き去り,残りを全員に1枚ずつ全部配る(各人が同じ枚数になる必要はない)。2人から8人でプレーする。各プレーヤーはペアになったカードを表にして捨てる(3枚は捨てられない)。次に各プレーヤーは,代わる代わる,手札をシャッフルし,裏を向けて自分の左隣の人に差し出す。左隣の人は,そこから1枚引き抜き,ペアができたらそれを捨て,自分の手札をシャッフルしてさらに左の人に差し出す。最後にペアを作れなかったクイーンを持った人が残るので,その人が「old maid(老嬢)」というわけだ。

 これによるとOld Maidというゲームは最初51枚のカードから始めることになる。日本で普通に行われているババ抜きは,クイーンを抜く代わりにジョーカーを入れて, 53枚のカードから始めることが多いようだが,ルールの他の部分は,ほぼ上と同じだろう。実は,上のOld Maidのルールでも,最初にカードを引くのが誰かとか,カードが1枚だった人が引いてペアができてしまったら,その左隣の人は誰のカードを引くのかなど,不鮮明な部分があるのだがそれらの点は問題にしないことにする。

 岩井氏の問題提起は,「引くときに手札が偶数枚のほうが有利ではないか」というものだ。そのことは思考実験をしてみると簡単にわかる。最初の1人が上がるまでは,ゲームが進行しても手札の奇偶性は変わらないので,手札が奇数枚の場合の上がりかたは,「最後1枚持っていて,引いたカードが一致する」ということになり,偶数枚の場合の上がりかたは「最後2枚持っていて,引いたカードが2枚のどちらかと一致し,残った1枚を左隣のプレーヤーに渡す」ということになる。この2つの状況を比較すれば,2枚のうち1枚を一致させればよい偶数プレーヤーのほうが明らかに有利である。

 パズル懇話会のメーリングリストでは,コンピューター実験などを通して,この事実を確認したり,どのくらい有利になるかを調べたりしている。筆者としては,直感的には明らかなこの事実を,計算でも納得できるようにと思って,ジョーカーが2枚ある2人ババ抜きを考案したわけである。2人ババ抜きで先にカードを引くプレーヤーを先攻,他方を後攻と呼ぶと,カードが全部で奇数枚の場合,先攻も後攻も手札が奇数枚のときに引くか,先攻も後攻も手札が偶数枚のときに引くかのどちらかになる。つまり,奇偶性が一致してしまい,差が生じないが,全部で偶数枚の場合,一方の人がカードを引くのが奇数枚の手札のときならば,他方は手札が偶数枚のときにカードを引くことになる。よって奇偶性による差が生じるというわけだ。

 さて,ここまでで帽子屋の使ったトリックはおわかりいただけたであろう。帽子屋は自分が先攻のときには持っているカードの枚数を偶数,すなわちジョーカーを除いた枚数であるnを奇数になるように誘導し,ヤマネが先攻のときにはnを偶数にするようにしていたのだ。

 では,奇偶性の差は,どのくらいになるのだろうか。具体的なnの値に対して先攻の勝率を計算してみよう。それをQn)とする。これを計算するには,方程式を立てるのが有効であるが,Qn)だけでは方程式が立てにくいので,ジョーカーが2枚とも後攻の手札にあり,他にn枚ずつカードを持っている場合の先攻の勝率をPn)とし,同様にジョーカーが2枚とも先攻の手札にあるときの勝率をRn)とする。すると

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というような方程式が得られる。2番目のQn)の式を説明すると,ジョーカーを1枚だけ持っている状態で,相手から1枚カードを引いてくると,それがジョーカーでない確率はn/(n+1)であり,その場合,ペアができるので,それが捨てられnの値が1下がる。ジョーカーを引く確率は1/(n+1)であり,その場合,カードは捨てられず先攻側が2枚のジョーカーを持つことになる。どちらの場合も,次は先攻後攻の関係が入れ替わるので,後攻だった側が先攻になり勝つ確率を1から引けば,Qn)が得られるというわけだ。Pn),Rn)の式も同様だ。さらに,P(0)=1,Q(0)=0,R(0)=0は明らかだ。この漸化式絡みのやや面倒な方程式を解くのは得意な人に任せるとして,結論だけを述べるなら,nが偶数のときは,

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であり,nが奇数のときは,

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となる。この結論を知ったあとなら,先の方程式を満たすことを数学的帰納法で証明するのは容易だろう。

 奇妙なことにnが奇数のときはQn)は一定で3/4だ。他の場合はnに依存はするが,いずれもnが大きくなるにつれ,手札が偶数枚のとき引くなら勝率は3/4に収束し,奇数枚なら1/4に収束する。従って,2人ババ抜きの場合,偶数プレーヤーが奇数プレーヤーより3倍くらい有利という結論が得られたことになる。

 ちなみに,通常通りにジョーカー1枚でこのババ抜きを行った場合,ジョーカーを持っていない場合の先攻の勝率をSn),ジョーカーを持っている場合の勝率をTn)とすると,nが偶数の場合はSn)=(n+4)/2(n+1),Tn)=n/2(n+1),nが奇数の場合はSn)=(n+3)/2(n+1),Tn)=(n−1)/2(n+1)となることを確認されたい。つまり,nが大きくなるにつれ差は薄まり,どちらも1/2に収束する。

 最後になったが,通常のババ抜きの場合にこの奇偶性による不公平さを排除し,かつ,誰かが上がった後も滑らかにゲームを進行させるには,カードを2枚ずつ配り,最後のあまりの1枚をもらった人が左隣の人にカードを引いてもらってゲームを開始するのがよさそうだということを申し添えておく。この2枚ずつ配るというのはパズル懇話会の白川俊博氏の発案である。

参考にした本
Mathematical Puzzles:A Connoisseur's Collection(2004),
Mathematical Mind-Benders(2007) P. Winkler。
邦訳は『とっておきの数学パズル』(2011年),『続・とっておきの数学パズル』(2012年),ピーター・ウィンクラー著,坂井公・ 岩沢宏和・小副川健訳,日本評論社。

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