パズルの国のアリス

もっと赤字を!!(解答)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 最初の問題は簡単だろう。代表的な解法のひとつは,等比級数の和を計算することだ。今,赤字累計が偶数だったとする。次に勝つ(確率1/2)と黒字1枚をノートに記録することになり,その結果,奇数枚の赤字累計が記される。一方,負けると赤字は3枚増えるがこのときはノートには何も記入されず,その次に勝つ(確率1/4)と累計で赤字2枚となり,ノートに累計偶数枚の赤字が記録される。一般に,n回続けて負けたあとに勝つ(確率1/2n+1)と,そのとき記録される赤字枚数は前の数値に3n−1を加えたものになる。この値は,nが奇数のときに偶数となるので,現在の赤字枚数が偶数のとき,次に記録される赤字枚数がまた偶数になる確率は

 

である。

 この解法で何の問題もないのだが,方程式を立てて解く手法も紹介しておこう。前々月の問題でもみたように,この手法は,確率を扱う場合にしばしば有効な手段となる。今,赤字累計値が偶数とし,次に再び偶数の累計値が書かれる確率をxとする。次に勝てば,奇数の累計値が記録されることになるので,そうならないためには,次は負けねばならない(確率1/2)。そして,その次に勝てばよい(確率1/2)。このとき負ければ(確率1/2),そこまでの赤字累計は偶数に戻り,現在の状況と同じになる。従って

 

という方程式が成り立ち,これを解いてもx=1/3が得られる。「何のことはない。先の等比級数の和を求める計算と同じではないか」と思われる人も多かろうが,級数の式を作ったりその値を求めたりする手間がないので,その分,処理は簡単になる。

 次の問題も,さほど難しくはないが,見た目よりは厄介であろう。上に計算したように,次に記録される累計赤字が偶数になるという事象の確率は1/3だから,逆に奇数になる確率は2/3である。従って,一般に1回の試行によってある事象が起こる確率がpのとき,そのような事象が起こるまでの試行回数の期待値が1/pであることを知っていれば,次に記録が奇数になるまでの記録の平均回数は3/2回になることがわかる。

 しかし,問題は何回目の記録でそれが起こるかということではなく,それまでに投げた銀貨の枚数である。例えば,1回目の記録で奇数になったとしたら,それまでに投げた枚数の条件つき期待値は,

 

を確率2/3で割ったものとなる。その値は5/3となるが,級数の和を含め実際に計算するとなるといささか面倒だし,これを計算できても,もとの問題自体はそれほど簡単にならない。しかし,一応この路線でも解は得られるので,続けてみよう。一方,1回目の記録が偶数になったとしたら,それまでに投げた枚数の条件つき期待値は,

 

を1/3で割って8/3である。従って,1回目の記録で奇数になった場合,2回目の記録で奇数になった場合,3回目の場合,……と期待値を累計して

 

である。途中の計算で,一部でも方程式を利用すれば,かなり省力化されるが,いずれにせよ,「なんとへたくそな計算」と多くの読者があきれたであろうことは間違いあるまい。

 その通りである。上の級数計算がどうして上記のような結果になるのかは,高校数学くらいの良い練習問題になりそうなので,残しておくが,もとの問題を解くだけなら,期待値の性質を利用することで,ずっと簡単に解が得られるのだ。それは,Aということがらを平均a回含むBということがらがあった場合,Bを平均b回含むことがらCは,Aを平均でab回含むという当たり前の事実である。この問題の場合,(奇数であれ偶数であれ)ノートに累計が記録されるのは(銀貨の裏が出て)勝った後だから,2つの記録の間に投げた銀貨の枚数の期待値は1/2の逆数で2枚だ。また,偶数を記録したあと,次に奇数が出てくるまでには平均で3/2回の記録が必要だから,その間に投げる銀貨の平均枚数は2×3/2=3であることがわかる。

 実は,上の期待値の性質に気がつかなくとも,簡単に結論を得る方法は他にもある。それは,勝ったときの黒字1枚も,負けたときの赤字3枚も,ともに奇数だということに着目することだ。従って,現在の赤字累計が偶数だとすれば,(ノートに記録されようがされまいが)それから偶数回銀貨を投げた後では,累計は必ず偶数になっている。逆に,奇数回銀貨を投げた後では,累計は奇数だ。要するに,奇数回目の銀貨投げで裏が出たときにのみ奇数がノートに記録され,偶数回目の銀貨投げの結果はノートに記されても偶数だからまったく無関係である。よって,問題の期待値をxとすると,次にいきなり勝った場合(確率1/2)は奇数が記録されるがそれまでに投げた枚数はもちろん1枚であり,それ以外の場合はさらに1枚を投げた後で,(その結果にはかかわらず)もとの状況に戻るから

 

という方程式が成立する。これを解いてもx=3という解が得られる。

参考にした本
Mathematical Puzzles:A Connoisseur's Collection(2004),
Mathematical Mind-Benders(2007) P. Winkler。
邦訳は『とっておきの数学パズル』(2011年),『続・とっておきの数学パズル』(2012年),ピーター・ウィンクラー著,坂井公・ 岩沢宏和・小副川健訳,日本評論社。

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