パズルの国のアリス

マハラジャの風変わりな賭け遊び(解答)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 ウォーミングアップ問題は簡単であろう。負けると1枚と3枚の交換なので2枚の赤字になる。従って1回の賭けは,1枚の黒字になる可能性と2枚の赤字になる可能性がそれぞれ1/2だから

1×1/2+(-2)×1/2=-1/2

で,銀貨1/2枚の赤字が期待値である。よって,現在500枚の赤字が1000枚になるにはさらに500枚の赤字を出す必要があり,それには500÷1/2=1000回くらい賭けを行う必要がある。月100回のペースで行うとそれには10カ月くらいかかる。

 次は,一度も黒字にならない可能性であるが,これはうまく分析すると,簡単な方程式を立てることができる。それを解くことで計算するのがよいようだ。

 一度でも黒字になることがある確率をxとしよう。すると,決して黒字にならない確率は1-xであるが,そのためには最初の賭けでは負けねばならず(確率1/2),その結果,銀貨2 枚の赤字になる。ここから先で黒字になる可能性を検討してみよう。

 この賭けは,お大尽が勝ったとしても取り戻せる銀貨は1枚だけだから,黒字になるとすると,どこかで赤字が1枚になり,次に0枚になり,その後にやっと黒字になるしかない。では,赤字2枚がどこかで赤字1枚になる確率はどのくらいだろうか。実は,他の条件はまったく同じだから,これは0枚から始めてどこかで黒字になる確率に等しい。つまりxである。同様に1枚になった赤字がどこかで0枚になる確率もxであり,そして,それが黒字に変わる確率もxである。逆に言えば,そういうことが起こらない限り黒字になることはない。従って,「一度も黒字にならない確率」は「最初に負けて,その後赤字を取り戻してから黒字に転ずることがない確率」だから1-x=1/2(1-x3)という3次方程式が立つ。この方程式は解を3つ持つが1つは1であり,もう1つは負の値になる。最後の解は,お馴染みの黄金比φ=(-1+√5)/ 2≈0.618034だ。これがどこかで黒字になる確率であり,逆に黒字に決してならない確率は1-φ≈0.381966である。ついでながら,黒字2枚になることがある確率はφ2,黒字3枚になることがある確率はφ3である。

 最後の問題は,かなり厄介かもしれない。黒字になったことがないということから,最初は負けたはずなので,赤字2枚という記録はあるに違いない。そして,赤字1枚という記録が書かれない可能性は1-φである。では,3は?……というふうに順に考えるのはきりがないようだ。そもそも知りたいのは自然数全体の中でのノートに記されることのない数の割合だから,十分大きなnという値が決して出てこない可能性を考えればよい。どういう場合に,それが起こるかというと,赤字n-1枚のときに負けて,赤字n+1枚になり,その後決して赤字n枚に戻ることがなく,その前にも赤字n枚だったことがないというケースである。つまり,ある負けで,赤字枚数がその数値nを飛び越えてしまい,その前にも後にも赤字額がnに達することがなかった場合だ。

 そこで,今,賭けでのある負けを1つ固定して考えよう。それにより赤字額は2増える。このとき飛び越えた赤字額がその後にノートに記される確率は,明らかに先に計算したφである。では,それ以前にノートに記されていた可能性はどうだろうか。もし,この負けが非常に初期のものであれば,その可能性は小さい。しかし,相当回数の賭けをやった後の負けであれば,事実上,永劫にわたってその賭けを繰り返してきた場合と同じと考えて差し支えない。この場合,対称性から,そのとき飛び越えた数値が既にノートに記されている確率もφであることが簡単にわかる。従って1回の負けがノートに記されることのない数値を生み出す確率は(1-φ2である(厳密には,上で述べたように,この負けが初期のものであれば,既にその数値がノートに記されていた可能性は小さくなるので確率はもっと大きくなる。しかし,あとのほうの負けであればあるほど,確率はこの値に近づく)。

 今,大きなNという数値を固定して,赤字がN枚に達するまでに賭けを何回やらねばならないか考えると,ウォーミングアップ問題のときに考えたようにそれは大体2N回である。そのうち,勝ちは大体N回,負けもN回である。このN回の負けが,ほぼ(1-φ2N個のノートに記されない数値を生み出す(最初のうちは,もっと高い頻度で生み出すが,次第にこの頻度に近づく)。従ってノートに記されることのない数値の比率はNが大きくなるにつれ,(1-φ2N/N=(1-φ2≈0.145898に近づく。

参考にした本
Mathematical Puzzles:A Connoisseur's Collection(2004),
Mathematical Mind-Benders(2007) P. Winkler。
邦訳は『とっておきの数学パズル』(2011年),『続・とっておきの数学パズル』(2012年),ピーター・ウィンクラー著,坂井公・ 岩沢宏和・小副川健訳,日本評論社。

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