パズルの国のアリス

アイスクリームケーキの怪(問題)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 ハートの女王がわめきたてていた。
「泥棒じゃ,ケーキ泥棒じゃ。またもやジャックの仕業に違いない。さっさと首を刎ねておしまい!」

 アリスが話を聞いてみると,今回,女王が作ったのはタルトではなく,下がバニラ,上がチョコレートの2層になった丸いアイスクリームケーキということだった。公爵夫人の料理番の助言により女王はそれを冷凍庫にしまっておいたのだが,どうもそこに誰かが忍び込んだらしい。

 もっとも,ケーキは盗み出されたわけではなく,一部を楔形に切り出し上下反転したうえでまた元の場所に戻す,といういたずらをされたらしい。ケーキを見ると,一部でバニラが上層にチョコレートが下層になっている。ともかく,つまみ食いをした様子もないので,いったん騒ぎは収まった。

 だが,しばらくするとまた誰かが侵入したらしく,先に反転した部位の隣をやはり同じ分量切り出して反転してあった。こうして,いたずら者は何度も侵入した。いつも半径に沿ってきっかり同じ量を前の箇所のすぐ右隣から切り出して上下反転させようと決めているらしく,時間とともに下図のようにチョコレートが下になった部分が反時計回りに増えていった。

 上面がほとんどバニラになった後も,飽きることもなく,侵入者は同じことを続けていたが,料理番がときどきケーキを取り出して見てみると,あるときケーキの上面がすべてチョコレートに戻ったことがあるという。

 問題は,このいたずらの犯人を当ててもらうことではない。犯人は,読者もお察しの通り,神出鬼没のチェシャ猫だとあとで判明し,ハートの女王はチェシャ猫のありもしない首を切るように相変わらず騒いでいたが,考えていただきたいのは,料理番の報告のようにケーキの上面にチョコレートが完全に戻ることがあるとしたら,チェシャ猫の切り出したケーキ片の中心角はどのような値だったろうかというものだ。


答えは,2012年7月号に掲載

再録『パズルの国のアリス 美しくも難解な数学パズルの物語』

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