パズルの国のアリス

鉢合わせはもうこりごり(問題)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 トランプ城の兵士部屋では,大手門前のパレードの話に花が咲いていた。2010年の3月号で紹介したパレードである。ハートのエースから10まで兵士10人が最初適当な間隔で東西の守衛所の間に並び,正午の合図とともに一斉に同じ速度でそれぞれ東西どちらかに向けて歩き出す。2人の兵士は,鉢合わせするとどちらもくるりと反転し,同じ速度で進む。各兵士は,東西どちらかの守衛所に到達するまでその行ったり来たりを続ける。

 2011年6月号7月号では,その代役をスペードの兵士たちが務めたときに起こったエースの失敗の顛末,さらにそのパレードがきっかけとなったインフルエンザ感染について述べた。

 「あのときのインフルエンザには参ったよな」とスペードのエース。「俺が感染源だと言うやつもいるが,あのときの全員の動きの記録が残っていれば,きっとそうでないと証明できるのに……」。「まあ,済んだことさ」とダイヤの10が慰める。

 ハートの4が話題を引き継ぐ。「でも,皆,あれ以来感染を警戒して,最初なるべく守衛所に近いところに立ちたがるので困るんだ。この頃じゃ,くじ引きで立ち位置を決めてる始末さ。そしたらそれを女王様に知られたらしく,『名誉あるパレードをなんと心得るか』と,えらいおかんむりで……」。

 「『首をはねよ』と来たかい?」と宣告慣れしているスペードの2。「いや。それだとパレードが中止になりかねないのでまずいと思ったんだろうけど,今日は『エースから10までそのまま番号順に西から並べ』と来やがった」とハートの4。

 「まさか,インフルエンザはないだろうけど,真ん中近くからスタートするとそうでなくても方向転換が忙しくて目が回りそうになるんだ。エースや10はいいよな。俺なんか,5や6ほどではないにしても,結構,真ん中に近いから……」

 確かに端のほうに比べ,中央に近いと鉢合わせの回数は多くなりそうだが,女王の言うとおりハートの4が西から4番目の位置からスタートすると,パレードが終了するまでに平均何回くらい鉢合わせをすることになるだろうか? 各兵士の最初の間隔や向かう方向はまったくランダムとする。

 さて,実際にパレードが終わってみると,ハートの4のボヤキはひどくなった。「ついてないよな。結局,鉢合わせの回数は,俺が一番多くて,真ん中の5や6のほうが少なかったんだから。偶然とはいえ,いやになるね。それとも,俺が最初に歩き出す方向をうまく選べばよかったのかな?」

 このようにハートの4の鉢合わせ回数が他の誰よりも多くなるということは,どのくらいの確率で起こるのだろうか? また,ハートの4が最初に西向きに歩き出すのと,東向きに歩き出すのとではこの確率に違いが生ずるだろうか?


答えは,2012年5月号に掲載

再録『パズルの国のアリス 美しくも難解な数学パズルの物語』

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