パズルの国のアリス

奇妙な時計屋(問題)

坂井 公(筑波大学) 題字・イラスト:斉藤重之

 アリスが不思議の国で散歩していると白ウサギが駆け去っていくのを見かけた。いつもはトランプ城の周辺を忙しそうに走り回っているのに,今日は方角が違う。何か面白いことがありそうだと,アリスは思わずあとを追った。

 例の不思議なウサギ穴を通ったり奇妙なドアをくぐったりしながら,結局,着いたのは,見覚えのある小さな店だ。白ウサギに続いて店に飛び込むと,帳場の向こう側にいた年とった羊が,編み物の手も休めずに,大きな眼鏡越しにじろっと睨み「何だね,そんなにあわただしく。何が買いたいんだね」。

 どこをどう通ったやら,最初に鏡の国へ来たときに入った羊の老婆の雑貨屋に来ているらしいと気がついた。「いえ,別にそういうわけでは……」と言いながら,辺りを見回す。ところが,棚やテーブルに置いてあるものは,アリスが目をやると,皆,時計に変わってしまう。前に来たときも奇妙な店だとは思ったが「あれ,こちらは時計屋さんでしたか?」と問うと,羊は,白ウサギを編み棒で指しながら,「時計を買いに来たお客さんがおられるのだから,時計屋に決まっとろうが……お前さんのように,ひやかしで入ったような客には何屋でもかまわないだろうがな」

 白ウサギは「よし,これにしよう」と,大きな丸いテーブルから時計を1つ取り上げ,「さすがに,白の騎士が作ったものは面白い」。

 「それ,白の騎士さんの作品ですか?」とアリスが問うと,初めてアリスに気がついた様子で,うるさそうに「このテーブルの上のものは全部さ。だよね?」と羊に同意を求める。

 羊はうなずいて「白騎士は,売り物は大体うちに卸してくれる。時計は,このテーブルの上の30個で全部じゃ。お前さんは,どうせ買う気はないじゃろうから,パズルでも考えておれ。このテーブルの上の時計は,実にさまざまだ。鏡の国だから,針が普通とは反対向きに回るものもあるし,時針・分針・秒針どの針の長さもいろいろだ。共通なのは,どの時計にも分針はあり,それぞれ正確に1時間で一周することだ。さて,テーブルの中心から各分針の先端までの距離の合計と,テーブルの中心から各分針の回転軸までの距離の合計とを比べると,先端までの距離の合計の方が大きくなっている瞬間があると誰かが言っておったが,それは確かかな?」

 読者の皆さんには,このパズルに答えを出していただきたい。時計はどれも針の回転面が水平に置かれているが,12時の方向は時計ごとにまちまちである。


答えは,2012年4月号に掲載

再録『パズルの国のアリス 美しくも難解な数学パズルの物語』

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