蜂の巣迷路(問題)
ハンプティ・ダンプティが入院したと聞いて,鏡の国総合病院にアリスが見舞いに行くと,いつもなら蝶ネクタイを締めている首のあたりに白い布を巻いてはいるが,ベッドの上でうなっているわけではなく,ノートになにやら図を描きながら考え込んでいる。
「塀から落ちて粉々になったかと心配してましたけど,何だか元気な様子ですね。どうしたんですか?」
「何じゃ,お前さんか。ミツバチかと思ったが……うーむ,塀から落ちたわけではないが,いや,ひどい目にあった。スズメバチがよってたかってミツバチをいじめているところに出くわしてな。仲裁に入ったらいきなり刺してきよった。ほれ,こんなに腫れてしもうた」と包帯をめくって見せた。体の一番太い部分なので,腫れたと言われてもアリスにはわからないが,心なしか赤みを帯びているような気もする。
とりあえず,「わあ,痛そうですね」と調子を合わせると,ハンプティは「まったくけしからん。ミツバチが協力するというので,今,報復を考えているところだ。といっても,暴力的手段ではかなわんのでちょっと意地悪をしてやろうと思うのだが,一緒に考えてくれんか」
アリスが興味をそそられた様子を見せると,「スズメバチの巣がたくさんの六角形の部屋からできているのは知っておろう。羽化したばかりのやつがどういう風に巣の外に出てくるか知っておるかな?」
アリスが首を横に振ると, 「実は迷うことのないように各部屋の出口となる扉はひとつに決まっている。床の中央に矢印が描いてあり,その方向の壁についている扉から隣の部屋に移る。それを繰り返しているうちに外に出られるという寸法じゃ。そこでじゃ」とハンプティは続ける。
「矢印をうまく細工して,巣の真ん中あたりの幼虫が永久に外に出られないようにできないかと考えておる。スズメバチどもは,ミツバチをバカにして自分たちの巣作りを無理やり手伝わせているので,うまく設計ができればその通りに矢印を描くのはミツバチがやってくれる」
そんなの簡単だとアリスが下のような図を示した。
するとハンプティは,「設計上の制限がひとつある。隣り合う部屋同士は,床に描いてある矢印の向きがせいぜい60°しか違ってはいけないということだ。これを守らないとスズメバチどもが怪しむから,それで設計がひどく難しくなっている」
なるほど,この図では中央の部屋の矢印をどういう向きにしても180°違う部屋が隣にできてしまう。
さて,アリスとハンプティは,思惑通りの巣が設計できるだろうか? 可能なら,彼らの設計を手伝ってほしい。無理なら,そのことを証明していただきたい。
疑念を持つ読者がおられるといけないので,付け加えておくと,スズメバチの巣は,同形同大の正六角形の部屋が隙間なく集まったもので,全体では有界な平面図形を形成し,内部には穴などは無いものとする。
答えは,2011年12月号に掲載
