パズルの国のアリス

スペード兵士間のインフルエンザ感染(解答)

坂井 公(筑波大学)題字・イラスト:斉藤重之

 これらの問題を考えるには,兵士同士が鉢合わせしたとき,互いに向きを変えようと,すれ違おうと,全体としての動きは同じだということのほかに,2010年4月号掲載の解答例で説明したもうひとつのアイデアを援用するといい。つまり,兵士たちが自分の名刺を持って歩き出し,2人の兵士が鉢合わせしたときにはいつもその名刺を交換すると考えてみることだ。すると,名刺はどれもまっすぐに最初に向かっていた方向の守衛所を目指して進んで行き,そこに到達したときに旅を終える。兵士が鉢合わせする総回数と名刺同士が交換される総回数とは明らかに同じだ。

 兵士の速度は一定だから,同じ方向に向かう名刺は決して交換されることがない。一般に,西に向かう名刺は,自分より西から出発し東へ向かう名刺とはただ一度だけ交換され,それ以外の名刺とは守衛所に入るまで出会うことがない。

 スペードのエースの名刺は西に進むので,それより西から出発する4枚の名刺とは交換される可能性がある。この4枚の最初の向きがランダムとすると,エースの名刺が他の名刺と交換される回数の平均は4/2=2回である。次にエース以外の2枚の名刺が互いに交換される可能性を考えてみよう。

 この2枚のうち東にあるほうをE,西にあるほうをWとすると,これらが交換されるのは,Eが西に向かいWが東に向かったときだけであり,その可能性は1/4だ。エース以外の名刺は9枚あり,2枚ずつの対の総数は9×8/2=36だから,それが交換される回数の期待値は36/4=9である。エースの名刺が交換される可能性と合わせて,結局,9+2=11回が総交換回数の期待値であり,これは兵士の鉢合わせ回数と等しい。

 残念ながら,この回数がインフルエンザの平均感染者数ではない。すでに感染している者同士が鉢合わせしても,それ以上には感染が広がらないからだ。しかし,名刺交換の考えは,感染者数を見積もるのにも有効である。なぜなら,感染するのは兵士でなくて名刺だとしても,同じだからだ。各名刺は,感染した名刺と交換されたときだけ感染する。もともと感染しているのがエースの名刺だけだとすると,それより西から出発した4枚のうち西に向かった名刺は,感染している名刺と交換されることがないので感染しないが,東に向かえばエースの名刺と交換され感染する。従って,平均してこのうちの2枚が感染する。一方,エースの名刺より東から出発した名刺は,東に向かえば感染を免れる。西に向かえば通常は感染するが,エースの名刺から直接うつるわけではないので例外があり,エースの名刺より西に東向きに進む名刺がなければ,感染しない。そのような名刺がない可能性は1/24=1/16であるから,東側から出発する名刺の感染数の期待値は5×1/2×(1-1/16)で約2.34だ。結局,エースの名刺も含めると全体で5.34枚くらいが感染すると言える。感染する兵士数の期待値も同じだ。

 一般的には,感染源の保有者が進む方向にm人,反対側にn人の兵士がいた場合,最終的な感染者数の期待値は1+(m+n)/2-n/2m+1となる。また,同じ条件での兵士の鉢合わせ回数の期待値はm/2+(m+n)(m+n-1)/8だ。

参考にした本:
Mathematical Puzzles: A Connoisseur's Collection(2004)
Mathematical Mind-Benders(2007) P. Winkler著

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