パズルの国のアリス

その正八面体サイコロはインチキ?(問題)

坂井 公(筑波大学)題字・イラスト:斉藤重之

アリスは,不思議の国の奇妙な裁判にあきれたことがあったが,今度は鏡の国で裁判が行われるという。被告は白の騎士で,容疑は「インチキ賭博の教唆」 だ。法廷にはたくさんの傍聴人が集まっていた。裁判官席に赤・白の王と女王が座っているが,白の王はお気に入りの臣下のことであり,心配そうにしている。

裁判長の赤の王が開廷を宣言した。

検察官のヤギが,白いヒゲをひねりながら罪状を読み上げる。「赤のポーンたちからの訴えによれば,被告は,1から8の目がある通常のものとは異なるインチキ正八面体サイコロを考案し,それを使って博打をするように勧めたということであります。ここに証拠としてその2つのサイコロを提出し,被告には落馬100回の刑を求刑いたします」。

「では,そのように……」と赤の王が言いかけると,アリスが口を挟むまでもなく弁護人席にいた白い紙でできた服の紳士が立ち上がり「おそれながら,裁判長,それは早計です。まず証拠品を調べて,それに被告の弁明も聞いてみませんと……」。

アリスは,鏡の国に来たばかりのとき,汽車で検察官のヤギや弁護人の白い紙の服の紳士と乗り合わせたことを思い出したが,そのときの意地悪な印象とはうらはらなまともな進言に,「へエー」と紳士への印象を改めた。

赤の王は,面倒くさそうに「では,どうすればよい?」

「まずは証拠品を拝見」と紳士はサイコロを手に取り,傍聴人にもよく見えるように高く差し上げた。形状は普通の正八面体だ。

「書いてある目の数までは,よく見えないでしょうから,読み上げますと,1,2,2,3,5,6,6,7。うーむ,2 と6 の目が2つあり,4と8の目がない。確かに奇妙ですな。もう1 つは,1,3,3,5,5,7,7,9。偶数の目がなくて,9なんぞがある。これも奇妙です」

「よし,有罪じゃ」とせっかちな赤の王。

弁護人は「まあまあ裁判長」と押しとどめ,白の騎士のほうを向いて,「被告はこれについて弁解することがありますか?」

白の騎士は,ここぞとばかり釈明につとめる。「博打と申すのは,2つのサイコロを振ってその目の合計を競うものです。つまり,目の合計だけが問題で,個々の目の出方は関係ございません」。

赤の王がポーンたちのほうに目をやると,皆,間違いないという風にうなずいた。白の騎士は続ける。

「そこで次の表をご覧ください」

 

 

「これは,通常のサイコロ2つの目の出方に応じて,その合計がどうなるかを表にしたものでございます。例えば,合計が4になるには,1-3 ,2-2 ,3-1のどれかで,3通りの目の出方があることがわかります。だから合計が4になる確率は3/64です。さて,次の表は私が考案したサイコロを振った場合です。1つのサイコロに同じ目が2つある場合には,それらを区別して2回書いてあります」

 

 

「さて,例えば,合計が4になる場合ですと,1-3,3-1,3-1のどれかで,やはり3通りですから確率は3/64です。この2つの表を見比べて下さ るとわかりますが,2から16までの合計値のどれをとっても,それが出る確率は,通常のサイコロを2つ使った場合と私の考案したサイコロ対を使った場合とでは同じなのです」

「つまり,個々の目は知らなくても,目の合計値だけを知っていれば済むような博打でなら,どちらのサイコロを使っても差し支えないという訳ですな」と弁護人の白服の紳士が引き継ぐ。

この弁明が功を奏し,白の騎士は刑を免れたが,人騒がせなものを作れないようにしばらく馬の背から降りることを禁じられた。乗馬が下手な白の騎士のことだから,何度も落馬して結局痛い目を見ることになったのだが……。

さて,読者への問題は,通常の立方体サイコロを使って,白の騎士が作ったのと同じようなサイコロ対を考案してほしいというものだ。つまり,立方体サイコロの対で,振ると出る目の合計の確率が,通常のサイコロ2つを振ったのと同じになるものだ。各面に割り当ててよい目の数は1以上の整数だけとする。また, 八面体サイコロの場合,白の騎士が考案したものの他にも同じような対が2つある。それらを見つけていただきたい。

 

 

今月の問題

鏡の国では白の騎士が考案した正八面体サイコロをめぐって,裁判になっていた。インチキ正八面体サイコロを使った博打を勧めていたというのが,白の騎士の罪状だ。賭けは対になった正八面体サイコロを使い,出た目の合計を競うもの。問題のサイコロは,一方の目は「1,2,2,3,5,6,6,7」で,他方は「1,3,3,5,5,7,7,9」となっている。裁判長である赤の王は有罪を言い渡そうとしたが,白い紙の服の紳士の弁護もあって,白の騎士は事なきを得た。2つの目の合計値は2から16まであるが,そのどれをとっても,通常のサイコロ(1 から8まで1つずつ)2個を振るのと,出る確率は変わらないのだ。今回の問題は,白の騎士の八面体サイコロ対と同じように,通常のサイコロ対を振った時と出る合計値の確率が同じになるような,面立方体サイコロ対を見つけるというもの。面に割り当ててよい数は1以上の整数のみとする。また,八面体サイコロの場合,白の騎士が考案したもののほかにも2つの対がある。それを見つけてほしい。


答えは,2011年5月号に掲載

再録『パズルの国のアリス 美しくも難解な数学パズルの物語』

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