パズルの国のアリス

ウイスキーのモルト比率(問題)

坂井 公(筑波大学)題字・イラスト:斉藤重之

白の騎士が色とりどりのたくさん並んだ甕(かめ)の前で考え込んでいた。その様子を眺めていた白の王様が聞く。

「そちは副業にウイスキー専門の酒屋を始めると言っておったが,そのポットの中身はウイスキーか?」

「はい,陛下。この白い甕の中は我が醸造所でつくった100 パーセントピュアなモルト原酒で,黒い甕の中は特注して仕入れたグレーン原酒でございます」

「ふむ,その大きなポットは甕と申すのか。で,さっきから何を悩んでおる?」

「はい,鏡の国の酒飲みは好みがうるさく,モルトとグレーンの混合比率をピッタリ1対2でブレンドするようにという注文をもらったのでございます。ところが,商売を始めたばかりであいにく酒を量る枡が1種類しかございません。それで,ともかく1対1の比率の酒は,赤い甕にたくさんつくったのです。それを白い甕や黒い甕の原酒と均等に混ぜると,モルト率1/4や3/4の酒はつくれます。しかし……」

「モルト率1/3は難しいとな。……ん,アホか。くだらん。モルト1枡とグレーン2枡をブレンドすればよいだけではないか」

「それがでございます,陛下。その客は,ブレンドに関して妙なこだわりのある人で,『3枡以上の酒を混ぜるのはかまわん。しかし,その場合は,各枡の酒はすべてモルト率の違う酒を使うように』と,かように申しますものですから……」

さて,1種類の枡だけを用いて正確にブレンドできるのは,明らかにモルト比率が有理数のウイスキーだけだが,モルト比率1/3,1/5,2/7のウイスキーをつくることはできるだろうか。この奇妙な客の言うように,3枡以上をブレンドするとき,同じ比率の酒を2枡分使うことは許されないとする。

 

 

今月の問題

副業でウイスキー屋を始めた白の騎士。モルトとグレーンの比率がぴったり1対2のブレンド (モルト比率1/3)を作るよう注文を受けた。モルト100%,グレーン100%,1対1のブレンドは甕に用意してある。ブレンドに使える枡は1つだけ。 客には妙なこだわりがあって,3枡以上の酒を混ぜるのはかまわないが,同じ比率の酒を2枡分,使うことは許されないという。この奇妙な注文に応えて,モル ト比率1/3,1/5,2/7のウィスキーを作ることは可能か?

答えは,2010年2月号に掲載

再録『パズルの国のアリス 美しくも難解な数学パズルの物語』

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