パズルの国のアリス

運試しのような神経衰弱(問題)

坂井 公(筑波大学)題字・イラスト:斉藤重之

ヤマネが帽子屋とトランプの神経衰弱をしていた。

アリスが見ていると,最初にヤマネがハートのAとスペードのKをめくった。次に帽子屋はスペードのAをめくったがハートのAを取ろうとしない。

「あなた,覚えてないの? さっきハートのAが出てたじゃない」とアリスはつい口を出した。

「失敬なやつだな。わかってもいないことに口を出すなって,ママに言われてないのか?」と帽子屋。アリスがキョトンとしてヤマネを見ると,ヤマネは気の毒そうに「この神経衰弱は,カードの番号だけ合ってもだめなんだよ。色も合わないと……」。

アリスは,「あんな言い方をしなくても」と思ったが,ルールも聞かないで口を出したことを後悔して,しばらく黙って見ていることにした。

ゲームがしばらく続くと,帽子屋がヤマネよりずっとうまいことが明らかになった。どうやらヤマネは,めくったカードをろくに覚えていないらしい。しばしばすでにめくったカードを再度めくっている。

たまりかねたアリスが「ねえ,ヤマネさん,それはスペードの7でしょ。さっき,クラブの7が出ていたじゃない」と口を出すと,帽子屋は噛み付きそうな顔でアリスをにらんだ。

アリスが慌てて口を閉ざすと,たまたま通りかかったグリフォンが帽子屋をなだめた。「確かに口数の多い子だね。でも,帽子屋のだんな,君が強いのはよくわかったから,ヤマネくんにもチャンスをやったらどうだい」

「ふん,めくったカードを覚えていないのは,俺のせいじゃないぜ。いったいどうすればいい?」

「そうだね。一度めくったカードは伏せるのをやめて,開きっぱなしにするってのはどうだい。これなら覚えていられなくとも何とかなる」

「それじゃただの運試しになっちまう。でも,もうだいぶ勝ったあとだし,それで少し付き合ってやるか」

「運試し? そうかな」とグリフォンはニヤッと笑って,ヤマネになにやら耳打ちした。ヤマネは,ポカンとしてグリフォンの言葉に耳を傾けていたが,やがて頷いた。

ゲームが開始されると,今度はじわじわとヤマネのほうが優勢になってきた。不思議なことに,相変わらずヤマネはすでにめくって外れとわかっている表になったカードを2枚目に選ぶことがある。

帽子屋はかんかんになって,グリフォンにくってかかった。「やい,グリフォン,てめえ,何か変な知恵をつけやがったな。ヤマネのやつ,ときどき外れのカードをわざと選びやがるが,それと関係があるに違いない」。

グリフォンがヤマネに授けた戦略はどういうものだったか?カードの番号だけでなく色もそろえる以外は通常の神経衰弱通りだが,念のために補足すると,ペアを作った場合には続けてもう一度めくることできる。ゲームでの得点は作ったペア数そのもので,カードの番号は関係ない。



ヒント

「めくったカードが表のまま」に惑わされないように。これはプレーヤーがめくったカードをすべて記憶しながら神経衰弱を進めていると考えればよい。自分の番で2枚めくるときに,既知のカードを選ぶか未知のカードにするかで戦略を考えてみるとよい。



答えは,2009年9月号に掲載

再録『パズルの国のアリス 美しくも難解な数学パズルの物語』

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