
ティラノサウルスの狩猟行動と食生活を復元するには,彼らの歯の理解が不可欠だ。ティラノサウルスの歯は,いくぶん曲がり,やや潰れた感じの円錐形をしている。断面は楕円形で,幅が狭くなった前面と後面の両方に鋸(のこぎり)のようなギザギザの列がある。
鋸状の部分があることから,ティラノサウルスの歯は,ギザギザ付きのステーキ・ナイフのように肉を切ったと考えられてきた。しかし,刃の形がギザギザであるか滑らかであるかにかかわらず,これまでナイフがどのようなメカニズムで物を切るのかを詳しく調べた例はない。私は,ナイフの構造との比較によってティラノサウルスの歯の謎を解き明かすことにした。
実験的に肉を切らせた歯を顕微鏡で観察したところ,衝撃的な事実がわかった。ギザギザに肉の食べカスがしっかりと引っかかっていた。ティラノサウルスの歯にはかなりの時間,肉片や脂が残っていたのだろう。このような食べカスは,腐敗性の細菌の温床となるから,ティラノサウルスにちょっと噛まれただけでも,獲物は致命的な感染症になったかもしれない。
著者
William L. Abler
ペンシルベニア大学で1971年に言語学で博士号を得た。その後,スタンフォード大学で神経心理学の研究員を経て,イリノイ工科大学で教職に就いた。人類の起源と進化について関心を持っていたが,やがて,これが人類進化の動物でのモデルや脳をはじめとする恐竜についての研究につながった。恐竜への関心から,現在はシカゴのフィールド博物館の地学部門で研究を行っている。
原題名
The Teeth of the Tyrannosaurs(SCIENTIFIC AMERICAN September 1999)