
過去20年間,世界のいくつかの実験グループは,陽子の崩壊現象を追い続けてきた。陽子崩壊は起きているとしても,発生頻度は極端に低く,まれにしかシグナルをとらえられないだろうと考えられていた。残りの実験データは,何でも通り抜けてしまう幽霊のような素粒子,ニュートリノによるバックグラウンドだった。
第1世代の陽子崩壊実験観測装置は1980年頃から各地で動き始め,1995年までに実験が終わったが,陽子崩壊をうかがわせる兆候は観測されなかった。ただ,実験をしているうちに研究者たちは,まったく別のことに気付き始めた。簡単に説明がつくと思っていたニュートリノによるバックグラウンドが,一筋縄では理解できないことがわかってきた。
ニュートリノは,飛んでいる間に,ある種類から別の種類に姿を変えているらしい。ニュートリノ振動という現象で,もし,それが本当に起きているなら,質量がゼロだとされていたニュートリノに質量があることを意味し,これまで素粒子理論は見直しを迫られる。
そのニュートリノ振動が,岐阜県の神岡鉱山の地下の一画にあるニュートリノの実験観測施設スーパーカミオカンデによって,ついにとらえられた。
著者
Edward Kearns / 梶田隆章(かじた・たかあき) / 戸塚洋二(とつか・ようじ)
3人はスーパーカミオカンデの国際研究グループの主要メンバー。カーンズはボストン大学教授(物理学)。梶田は東京大学助教授で,2人はスーパーカミオカンデによる陽子崩壊と大気ニュートリノの観測データ解析グループのリーダー。戸塚は国際研究グループの研究代表者で,スーパーカミオカンデを運用する東京大学宇宙線研究所の所長。
原題名
Detecting Massive Neutrinos(SCIENTIFIC AMERICAN August 1999)