日経サイエンス  1999年9月号

天才数学者ゲーデルの素顔

J. W. ドーソン(ペンシルベニア州立大学)

 ゲーデル(Kurt Godel)の顔も著作も,少数の哲学者と数理論理学者を除いて,ほとんど知られていない。しかし,彼の有名な「不完全性定理」は,数学とコンピューター科学の基礎に幅広い影響を及ぼしている。彼の仕事と生活は,繰り返し起こる精神的な障害に悩まされながら,すべてのことに合理性を求め続けた物語だ。
 ゲーデルは,ユークリッドの時代からごく普通に使われてきた数学的方法が「自然数について成り立つすべてのことを明らかにするには不十分である」ことを証明した。彼の発見は20世紀までに築かれてきた数学の基礎を根底から切り崩し,思想家たちを刺激してそれに代わるものを探すように仕向け,「正しい」とは何かについての活発な哲学的論争を巻き起こした。ゲーデルの独創的な技法は,計算のアルゴリズム(方法)にも関係があり,新しいコンピューター科学の基礎となった。(本文より)

 

 

再録:別冊日経サイエンス172「数学は楽しい Part2」


著者

John W. Dawson, Jr.

ドーソンは,ゲーデルの論文の目録をプリンストン高等研究所で作成した。ゲーデル全集の計画が始まったときからの編集者の1人。数理論理学でミシガン大学から1972年に博士号を取得,ヨークにあるペンシルベニア州立大学の数学の教授である。公理的集合論と論理の歴史に特に興味を持っている。

原題名

Gödel and the Limits of Logic(SCIENTIFIC AMERICAN June 1999)

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