日経サイエンス  1999年8月号

大人でも脳細胞は新生する

G.ケンペルマン(独レーゲンスブルグ大学) F. H. ゲージ(ソーク生物学研究所)

 成人の脳は障害を受けると,残った神経細胞(ニューロン)の間で新しい結合をつくり,上手に機能を代償することがある。しかし,神経細胞そのもが再生することはない。というのは再生に必要な神経幹細胞がないからだ──つい最近まで,ほとんどの神経生物学者はこう固く信じていた。
 昨年11月,スウェーデンのイエーテボリにあるサールグレンスカ大学病院のエリクソン(Peter S. Eriksson)とカリフォルニア州ラホーヤのソーク生物学研究所のゲージ(FredH. Gage)らは,成人脳においても,少なくとも,記憶と学習に重要な海馬においては,ニューロンが日常的に新生しているという驚くべき事実を発表した。
 新生ニューロンの数は,全体の数からすれば少ない。それでも,動物での最近の発見を考えると,この発見は,医学にある強い期待を抱かせる。現在のデータによれば,脳のほかの部位でも神経幹細胞は新生ニューロンを生み出している。また,別なほかの部位では幹細胞が存在するが分裂を休止しているようである。成人脳は見かけ上,修復能が低いが,実際には,大きな再生能力をもっているのだ。(本文より)

著者

Gerd Kempermann / Fred H. Gage

2人は,1995年以来共同研究をした。その年にケンペルマンがカリフォルニア州ラホヤにあるソーク研究所のゲージの研究室で3年のポスドク研究を始めたのである。ケンペルマンはドイツのフライブルグ大学でMDを取得し,現在はレーゲンスブルグ大学で神経内科の研修医をしている。ゲージは1995年以来ソーク研究所の遺伝学研究室の教授であり,1988年以来,カリフォルニア大学サンディエゴ校の神経科学部門の教授でもある。1976年にジョンスホプキンス大学で神経生物学で博士号を取得し,カリフォルニアに来る以前はスウェーデンのルンド大学の組織学の準教授だった。

原題名

New Nerve Cells for the Adult Brain(SCIENTIFIC AMERICAN May 1999)