日経サイエンス  1999年8月号

ブラックホールをあばく

J.-P.ラソータ(フランス国立科学研究センター)

 ブラックホールは銀河の中心やX線を放つ連星などに潜んでいると考えられているが,本体を直接観測できないため,状況証拠から,その存在を推測するしか方法がなかった。とくに連星系を構成するブラックホールの認定は非常に難しかった。状況証拠的には,ブラックホールと同じような性質を示す別タイプの高密度天体,「中性子星」が存在し,両者を見分けることが非常に難しいからだ。
 こうしたことから,これまでのブラックホール研究の中心課題は,中性子星にまぎれているブラックホールを識別する方法を発見することと言っても過言ではない。しかし,最近数年間の研究で,天文学者は,ついに,その識別法を見い出したようだ。
 それは中性子星とブラックホールの間の際だった構造の相違にもとづいている。中性子星は硬い表面をもっているので,その上に物質が蓄積する。これに対し,ブラックホールに落下してきた物質は,吸い込まれて永遠に消えてしまう。
 とくに,高温ガスがあまりにも迅速に落ち込むため,熱エネルギーを光(ガンマ線やX線)に変換して外に放出する間もなく事象の地平面の内側に入るようなケースが時として起こる。
 その様子を遠くから観察すると,熱エネルギーは永遠に“消え去ってしまう”ように見える。このエネルギーの“消失”こそ,ブラックホールの直接証拠だ。

著者

Jean-Pierre Lasota

 ラソータは子供のころ,天文学は退屈だと思っていた。本当の関心は文学と歴史だった。しかし彼の育った共産党政権下のポーランドでは,人文科学はマルクス主義によって息が詰まるような状態だった。そこでアインシュタインを個人的に知っていた彼の父は,物理学を研究するように彼を説き伏せた。10年後,彼はブラックホール理論で研究生活を始め,天文学の観測的側面にも開眼して,天文学もそれほど悪くないと思うようになった。その後,フランスに移り,現在はパリにあるフランス国立科学研究センターの研究科長を務めている。1987年から1988年にかけて,パリ天文台の天体物理・宇宙論部門を率いていた。最近では,パリの天体物理学研究所にも所属している。

原題名

Unmasking Black Holes(SCIENTIFIC AMERICAN May 1999)