日経サイエンス  1999年7月号

特集 組織工学 人体を再生する

バイオ人工器官の誕生

D. J. ムーニー(ミシガン大学) A. G. ミコス(ライス大学)

 器官や臓器が正常に機能しないために,毎日,多くの人が病院で治療を受けている。移植可能な臓器が不足しているため,死に直面している人も多い。肝臓,腎臓,乳房などの胸部組織,小腸などの臓器は原理的には人工的につくり出せる。新たな生体組織を必要としている患者の治療法を根本から変えようと,新しい戦略が考えられている。ネオ器官と呼ばれる人工組織・器官の創造だ。
 ある計画では,成長因子などの分子を患者の損傷部位や再生させる必要のある臓器へ注入・挿入する。これらの分子は患者の細胞を損傷部位へ移動させ,分化させ,そして元の組織を再生させる。もっと野心的な試みは,患者に本人か他人の細胞を移植することだ。この場合,移植する細胞はあらかじめばらばらの状態にされており,身体に移植されるとやがて自然に分解する生分解性ポリマーで作られた組織のような3次元構造体に取り込まれている。
 この細胞と基質から作られた“組織”は損傷部位へ移植されると,細胞が分裂し再編成し,やがて新しい組織を形成する。それと同時に人工ポリマーは分解され,損傷部位には完全に自然物と同じネオ器官が残る(本文から)。

著者

David J. Mooney / Antonios G. Mikos

2人は8年間共同研究している。ムーニーは1994年以来,ミシガン大学で働いており,生物学的材料科学および化学工学の助教授。彼は細胞が外部からの生化学的・機械的信号に,どのように反応するかを研究し,また組織工学で使用される高分子基質の設計と合成を行っている。ミコスはライス大学の生物工学と化学工学の助教授。ミコスは,基質として役に立つ組織工学用の新規性生物材料の合成,加工,評価,そして遺伝子治療のための非ウイルスベクターに焦点をあてて研究している。

原題名

Growing New Organs(SCIENTIFIC AMERICAN April 1999)