日経サイエンス  1999年7月号

特集:組織工学 人体を再生する

新しい医療を目指して

R. S. ランガー(マサチューセッツ工科大学) J. P. バカンティ(ハーバード大学)

 今回の特集が示しているように,組織工学は医学のなかでも勢いのある新しい分野として登場した。ほんの2,3年前まで人の臓器の代替といえば,臓器移植に頼るか,さもなければ,プラスチックと金属にコンピューターチップを加えた,まったくの人工物で置き換えるしかないと多くの科学者が考えていた。生きた細胞と天然あるいは人工ポリマーを組み合わせたバイオハイブリッド器官をつくるなど不可能な話で,移植用の器官の不足は,動物の器官を利用する以外には解決の道はない──。科学者でさえ,そう思っていたのだ。

 

 ところが今では革新的で想像力にあふれた研究が世界のあちこちで行われており,バイオハイブリッド器官の誕生が可能なことを示している。組織工学の製品を開発しているバイオテクノロジーの会社の市場はおよそ40億ドルで,毎年売り上げの22.5%以上を開発費に当てている。しかし,この投資が報われて,組織や器官が機能不全に陥っている人を確実に救えるようになるまでに,いくつかの大きなハードルを越えなければならない。

著者

Robert S. Langer / Joseph P. Vacanti

2人は,組織工学で使われているさまざまな技術のパイオニアであり,この分野で活躍中の科学者を育ててきた。ランガーはマサチューセッツ工科大学の化学および生医学工学のケネスJ. ゲルメシャウセン記念教授。 バカンティはハーバード大学医学部の外科学のジョン・ホマンス記念教授およびマサチューセッツ総合病院の組織工学と器官構築研究室の統括者である。両氏はいくつかの組織工学関連会社の科学顧問を務めている。

原題名

Tissue Engineering: The Challenges Ahead(SCIENTIFIC AMERICAN April 1999)