日経サイエンス  1999年7月号

無限の宇宙は錯覚か

J.-P. ルミネ(パリ・ムードン天文台) G. D. シュタルクマン(ケース・ウエスタン・リザーブ大学) J. R. ウィークス(数学者)

 「宇宙は有限か,それとも無限か」という問題は古くから哲学でとり上げられてきた疑問だ。一般相対性理論に従うと宇宙の局所的な曲がり方は,ユークリッド的,球的,双曲的のどれかになる。私たちはその空間の中にいるので空間の曲がりを直接は見られない。現在までの観測で,宇宙はユークリッド幾何学が成り立つ「平面」のような形をしているか,「双曲的」な鞍型をしているかのどちらかでなければならないのがわかってきた。
 こうした宇宙の形を問題にしたトポロジーの研究が1990年台に入り,急速に発展してきた。こうした宇宙のトポロジーのモデルを組み立てていくと,私たちは有限の宇宙の中にいて,1つの銀河から出た光を複数の方向から来たと知らずに見ている可能性もある。
 そして,最近ではこうした宇宙のトポロジーを観測的に調べる試みも盛んにされるようになってきた。同じ銀河がどのように繰り返し現れるか,そのパターンで宇宙がどのようなトポロジーをしているのかを判断しようとしている。このようなトポロジー的考察から21世紀初めには,宇宙が有限なのか,無限なのかという問い掛けにも,答えが出ているかもしれない。

著者

Jean-Pierre Luminet / Glenn D. Starkman / Jeffrey R. Weeks

 ウィークスによると3人はいろいろな研究者が専門分野の境界を越えて集まり,どんな馬鹿げた質問も許されるこの宇宙のトポロジー研究ブームに自分たちも参加できることを喜んでいる。ルミネはパリ・ムードン天文台でブラックホールの研究をしている。これまでに何冊かの科学解説書や詩の本を書いており,また,作曲家グリセイと一緒にミュージカル「星空の闇」の仕事をしている。また,シュタルクマンは,6年間プリンストン高等研究所とトロントのカナダ理論天体物理学研究所での雑用に縛られていたが,クリーブランドのケース・ウエスタン・リザーブ大学に移り,その拘束が解かれることになった。数学者のウィークスは新しく生まれた息子の面倒をみるため,イサカ大学の職をやめ,米科学財団(NSF)から予算をもらって研究用のソフトウエア開発をしている。

原題名

Is Space Finite?(SCIENTIFIC AMERICAN April 1999)