
何日も続くブリザードに地吹雪,雪に埋もれた危険なクレバス,予期せぬ雪上車の故障……。天から落ちてきた岩のかけらと塵(ちり)を求め,私たち8人の探査隊はさまざまな困難と闘いながら白夜の大氷原を3カ月半,約4000km旅した。
出発予定日だった1998年10月15日,昭和基地では猛吹雪を伴う冷たい強風「ブリザード」が吹き荒れ,出発延期を余儀なくされた。ブリザードと地吹雪にはよく悩まされた。地吹雪とは,空は青空でよく晴れているが,強風のため氷原に積もった雪が巻き上げられ,地表近くを乱れ飛ぶ状態のことだ。
ブリザードや地吹雪がひどい時は,目の前が真っ白になって視界がまったくきかなくなる。手を伸ばすと,手首から先が見えなくなることすらある。風は秒速30mに達し,総重量11トンもある大型雪上車が強風で揺れる。弱まっても風速15m以下になる日は少ない。
行く手の大氷原には,クレバスが口をあけている。大きなものでは幅が約10m,深さが数十mにも達する。とくに危険なのは,割れ目が雪に覆われ,その存在が隠された「ヒドゥンクレバス」だ。
今から10年前,第29次越冬隊による隕石探査の際,雪上車がこうしたヒドゥンクレバスにはまり,搭乗していた隊員もろとも30mも落下した。いわば10階建てビルに相当する氷の断崖から落ちたようなもので,隊員はけがはしたが,奇跡的に助かった。私たちは,最悪の事態を想定して救難訓練を積むとともに,熟練した山岳経験者をメンバーに加えた。
著者
小島秀康(こじま・ひでやす)
国立極地研究所助教授,理学博士。専門は隕石学,とくに始原隕石の岩石学的研究。第20次,27次,39次南極観測隊のメンバーで,今回の隕石探査ではリーダーを務めた。