日経サイエンス  1999年6月号

世界最大のトカゲ コモドドラゴン

C. チョーフィ(ロンドン動物学会)

 コモドドラゴンについてまず聞かれるのは,その大きさだ。公式記録を見る限り,最大個体の全長は3.13m。この個体は,166kgあったとされるが,この値には胃の中の未消化物の重さも含まれていた可能性がある。野外での最大クラスのコモドドラゴンの体重は,普通70kg前後で,飼育下では餌の食べすぎから長さの割に体重が増えることもしばしばある。
 狩りでは,じっと物陰に隠れて,力任せに獲物を襲う。まずその脚を攻撃する。一撃で鹿などの獲物のバランスを崩す。小さい獲物には,はじめから,首を狙う。基本的な戦術はいたって単純で,獲物をまず地面に転がし,それから引きちぎる。コモドドラゴンの最も危険な武器は,その歯。大きくて,湾曲し,側方に小さなギザギザ(鋸歯)を備えたコモドドラゴンの歯は,ちょうど鍬(くわ)が地面をすくように,きわめて効果的に肉を引き裂いてしまう。
 卵からかえったばかりのコモドドラゴンは,体重100gたらずで,全長も平均40cmほど。生後5年で体重は25kg,全長は2mに達する。このころまでに食事のメニューは,げっ歯類やサル,ヤギ,イノシシ,そしてコモドドラゴンにとって最も普通な食べ物である鹿などになる。その後も,おそらく30年を越えると思われる彼らの生涯を通じて,ゆるやかな成長が続く。全長3m,体重70kgの骨と歯と筋肉のかたまりとなった最大級のコモドドラゴンは,彼らのすむ小さな王国の支配者となるのである。

著者

Claudio Ciofi

イタリアのフィレンツェ大学を卒業し,1998年には,英国カンタベリーにあるケント大学のダレル保全・生態学研究所で博士号を取得した。現在彼は,ロンドン動物学会を拠点とし,ジャワにあるガジャマダ大学,バリにあるウダヤナ大学と共同研究をしている。彼のコモドドラゴン調査プロジェクトは,はじめ集団遺伝学的な研究としてスタートしたが,その後視野を広げ,行動生態学,個体群統計学の領域の研究などを包括するとともに,生息域の保全や,地元民のプロジェクトへの参加の促進にも取り組んでいる。この研究は,ロンドン動物学会,野生生物保護協会,スミソニアン研究所,アースウォッチ協会ならびに英国航空からの援助によって進められている。

原題名

The Komodo Dragon(SCIENTIFIC AMERICAN March 1999)

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