日経サイエンス  1998年11月号

宇宙ゴミの脅威

N.L. ジョンソン(米航空宇宙局)

 宇宙開発が始まって40年で人工衛星など総計2万トン以上の人工物が軌道上に打ち上げられた。現在でも4500トン,およそ1万個の人工物が地球を回っているが,稼働中の人工衛星はそのうちのたった5%にすぎない。残る95%は不要になった衛星やロケットなどの残骸や破片などだ。これらは宇宙のゴミ,「スペース・デブリ」と呼ばれる。

 

 史上最悪の宇宙ゴミ発生事故は1996年6月3日に起きた。1994年に打ち上げられ,軌道上を漂っていた米国のペガサスロケットの上段部分が突如爆発し,高度250~2500kmの広い範囲にわたって,地上から観測できる大きさのものだけで700個以上の宇宙ゴミをまき散らした。この爆発事故によって,ペガサスロケットのわずか25km下の軌道を周回しているハッブル宇宙望遠鏡への宇宙ゴミ衝突の危険性は2倍に跳ね上がった。

 

 1996年7月には,ついに活動中の衛星と宇宙ゴミとの深刻な衝突事故が起こってしまった。フランスの軍事衛星セリースは,10年前に軌道上で爆発したヨーロッパのロケットの破片と相対速度秒速15km(およそ時速5万4000km)で衝突,姿勢制御用の装置に損傷を受けた。しかし,懸命の復旧作業によってセリースはミッションを継続できるまでに回復した。

 

 残念なことに,現在稼働中のすべての人工衛星は,1~10cmの大きさの宇宙ゴミに対しては衝突から身を守る術をもっていない。この範囲のサイズの宇宙ゴミは,現在の米ロの追跡システムには小さすぎてキャッチできず事前回避が不可能だ。しかも現在の人工衛星に使われている部材では,このサイズの宇宙ゴミが衝突すれば容易に衛星の壁面を貫通してしまうのだ。(本文より)

著者

Nicholas L. Johnson

NASAの宇宙ゴミ問題の主任科学者の要職にあり,ジョンソン宇宙センター(ヒューストン)に勤務している。スペースデブリ国際調整会議の米国代表団の団長と国際宇宙科学学会(IAA)宇宙ゴミ小委員会の共同議長,米国航空宇宙学会のスペースデブリ標準化委員会の委員も兼ねている。さらに1993~1994年まで米国研究評議会のスペースデブリ委員会の委員,1995~1996年までは国際宇宙ステーションのメテオロイド・宇宙ゴミ安全管理委員会の委員を務めた。

原題名

Monitoring and Controlling Debris in Space(SCIENTIFIC AMERICAN August 1998)