
クラリネットには1枚のリードがあり,オーボエには2枚のリードがある。リードを口にくわえて少し強めに吹くと,リードが振動して音が出る。これは,リードに弾力があってしなりやすいため,リードが息の圧力や管内の音圧を,受けたりはね返したりするからである。
しかし,尺八,フルート,リコーダーにはリードがない。これらの楽器では,息をエッジに当てて空気を振るわせることにより,音を出す。空気の流れをリードのように働かせるので,これらは「エアリード楽器」と総称される。
初心者にとって難しい点は,唇とエッジとの間を適当な距離にして「歌口」を作らなければならないことである。正しい歌口を作るには習練が必要である。低い音を出すには歌口を長めに,高い音を出すには歌口を短めにする。この距離感は音域が1オクターブ上下すると違ってくる。さらに,同じ指使いで半音下げるためには,顎を引いて息をエッジの下に向け,歌口がほとんど閉じるようにする。ピアニストが指で音を覚えるように,尺八吹きは唇(息の強さと方向そして歌口との距離)で音を覚えなければならない。
尺八は簡単には鳴らせないのに,同じエアリード楽器であるリコーダーは小学生でも楽に鳴らせる。これは,リコーダーではあらかじめ歌口が作られており,息を吹き込む角度がうまく固定されているからである。初心者が尺八を吹くと,歌口がずれやすく,吹く音に応じた微妙な調整はまずできない。しかし,この固定されていない不安定な歌口こそ,自由自在で表現力豊かな尺八の音を生み出す原点なのである。(本文より)
著者
吉川茂(よしかわ・しげる)
九州芸術工科大学音響設計学科教授,工学博士。名古屋大学物理学科卒業。防衛庁技術研究本部勤務を経て現職。著書に『ピアノの音色はタッチで変わるか』(日経サイエンス社)他がある。 九州芸術工科大学音響設計学科教授,工学博士。名古屋大学物理学科卒業。防衛庁技術研究本部勤務を経て現職。著書に『ピアノの音色はタッチで変わるか』(日経サイエンス社)他がある。